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第3回 電子市民と公共参加

「ローカルe-デモクラシー国際シンポジウム」より

 インターネットの登場は政治の世界に大変革をもたらす、という予測がインターネット時代の初期に持てはやされたが、現実の変化は予想より遥かにゆっくりしたものになった。インターネットの双方向性が一般市民を情報の受け手だけでなく発信者へと変身させることは、理屈として理解されていたが、まだまだ具体的なイメージに欠けている。

■地元の電子会議室メンバーが市長に——ミネソタ州ミネアポリス市

 そうした中、米国ミネソタ州は、伝統的に市民の公共参加への意欲が高い地域として知られている。特にミシシッピー川を挟んで発展したミネアポリスとセントポール(両都市を一緒にして「ツインシティー」と呼ぶ)は、90年代半ばに市民グループがe-デモクラシーに着手したことで、先駆的な役割を担っている。

ライバック市長のサイト
ライバック市長のサイト
 ミネアポリス市のR.T.ライバック(R.T.Rybak)市長は、この市民グループの出身である。もともとは新聞記者を経てIT企業に勤めるサラリーマンであったが、電子会議室「ミネアポリス・イシュー・フォーラム」(MinneapolisIssues Forum、1998年に発足。登録メンバーは約900人)への参加をきっかけに本格的に政治に関心を持つようになった。

 「自分のコミュニティーを発見した。フォーラムで討論することで政治に目覚め、市長選に出馬するまでになった」(ライバック市長)。

 フォーラムは、わが国でも複数の自治体が取り組んでいる電子会議室をイメージすれば分かりやすい。ただし、市長もメンバーになっている「ミネアポリス・イシュー・フォーラム」は、行政ではなくボランティアが運営している点が異なる。

 ライバック氏は2001年の市長選で現職の市長を破り初当選した。「現在はブロードキャスティング(マス対象の配信)からナローキャスティング(対象を絞った配信)への変遷期となるが、市民中心のコミュニティづくりには絶好の機会でもある」とライバック市長は指摘する。現職の市長ということもありフォーラムへの参加は控えがちだが、自らブログを開設して発言を続けている。(ただし9月末時点では更新は止まっている。市予算の折衝に追われ休止中だという)。

■音声、動画を活用し始めた市民ジャーナリズム

 ブログはナローキャスティングの代表であり、ブログ=活字の情報メディア、と思いがちだが、音声や映像を主体にするブログがすでに生まれている。つまりネットラジオやネットテレビのミニ版である。

ブライアン・ラッセル氏の写真
ブライアン・ラッセル氏
チャック・オルセン氏の写真
チャック・オルセン氏
   「オンライン活動家」と自称するブライアン・ラッセル(Brian Russell)氏は、社会問題を中心にラジオエッセイを制作、自らのサイト「Audio Activism 」から「ポッドキャスティング(Podcasting)」と呼ばれる手法で音声情報を配信している。利用者はパソコンからアップルのiPod等にダウンロードして、好きなときに聞く仕組みだ。米国では昨年末からブームになっている。ラッセル氏は、「ディスカバー、レポート、シェア(共有)」をポッドキャスティングの3原則として提唱する。新しいスタイルの市民ジャーナリストの誕生である。

 アメリカでのブロードバンドの普及(2004年には34%増)は、ブログの世界を大きく変えている。ネットでの映像(写真や動画)配信が手軽になったのだ。「ボクのミニテレビ局は、ラジオ、テレビ、新聞をひとつにする可能性をもっている」とチャック・オルセン(Chuck Olsen)氏は語る。

 ビデオブログが台頭するのは今年になってからだが、オルセン氏は地元のビデオブロガーの第一人者だ。同氏はテレビ局に7年間勤めたことがあり、その道のプロでもある。「例えば、町内の自治会が犯罪対策の会議を開き、警察署長も出席した。地元のテレビ局が取材に来ていたが、ニュースではたった5秒の扱いだった」、と指摘する。氏のビデオブログ「Minnesota Stories」では4分半に編集されたストリーミング、および未編集の全記録(65分)を見ることができる。関心のある人たちにとっては貴重なレポートであり、ナローキャスティングの醍醐味でもある。

■行政サイドの活用例——英国、アンカレッジ市(米国アラスカ州)、クイーンズランド州(オーストラリア)

 インターネット環境が着実に進化するなかで、行政サイドも情報提供やオンライン・サービスだけで満足しているわけではない。自治体の中には、住民の声をいかに施策決定に反映させるか、に重点を置くところもある。市民の公共参加である。

 英国の「ローカルe-デモクラシー構想」のひとつに「ミクロ・デモクラシー」がある。英国南西の都市スウィンドンソフト開発会社イデッサ共同開発したパブリックコメント用のツールである。

 例えば、大型店舗の進出許可をめぐる問題で住民や関係者の意見を募るさいに、複数の市民グループ(ミクロコミュニティ)に賛否を論じてもらうことが可能になる。建設予定地の近くに住む市民や商店、車の通行や買い物客の影響を受ける地域、そして潜在的利用者が住む広域帯とすみ分けることで、無駄のない効果的な意見募集を狙うわけだ。

 アラスカ州のアンカレッジ市は、面積が東京都の倍以上もあるが、26万人しか住人がいないので、「インターネットの発展には理想的な環境である」と同市計画局のフレッド・カーペンター(Fred Carpenter)氏は言う。「電子政府も元気そのものだ」。

アンカレッジ市のサイト アンカレッジ市のパブリックコメント用ツール
アンカレッジ市のサイト アンカレッジ市のパブリックコメント用ツール

 市サイトの目玉が計画局のパブリックコメント用ツールである。宅地開発などで土地利用ゾーニング変更の申請が出されると、審査担当者のコメントを公表する一方で、住民の意見を募りサイトに掲示する仕組みになっている。「使い勝手が良く、市民からのフィードバックも多い」、とカーペンター氏は語る。市民は直接に利害のある問題には敏感に反応する、ということなのだろう。

 また、「E-アラート(警報)」と呼ばれるシステムに登録すれば、登録者の住む地域でゾーニング審査の新案件が提出された段階で、その通知がメールで自動的に送られてくる仕組みになっている。

 オーストラリアのクイーンズランド州は、「e-デモクラシーの制度化という意味で世界の最先端に位置する」と、Democracies Online編集長でE-Democracy.Org代表を務めるスティーブン・クリフト氏は高く評価する。「2001年の選挙でビーティ州首相がe-デモクラシーを公約し、予算を毎年つける方針を打ち出したことが背景にある」と、クイーンズランド州地域局でe-デモクラシー政策を担当しているケリー・オークス(Kerrie Oakes)氏は説明する。

クイーンズランド州のパブリックコメントの専用ページ
クイーンズランド州のパブリックコメントの専用ページ
 同州が特に力をいれているのは、パブリックコメントである。州政府の各機関は、地域局が開発したツールを利用して市民からの意見募集をするが、その際に同局の専用ページがゲートウェイになる。市民のコメントは同局が受け皿になるので、当該機関はコメントの分析に集中できるわけだ。「われわれの存在が政府内の各部局に知れ渡るようになり、利用が高まっている」とオークス氏は述べる。

石川幸憲氏の写真筆者紹介 石川幸憲(いしかわ・ゆきのり)

ジャーナリスト。1950年生まれ。上智大学卒業後、渡米。南イリノイ大学博士課程修了(哲学)。ペンシルバニア大学博士課程(政治学)前期修了。AP通信記者、TIME誌特派員、日経国際ニュースセンター・ニューヨーク支所長、日本経団連のシンクタンク21世紀政策研究所研究主幹を歴任。現在は在米ジャーナリスト。訳書に『インターネットは民主主義の敵か』(毎日新聞社)がある。

 [2005/10/12]

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