■ミネソタ州のツインシティ(首都セントポールと隣のミネアポリスを合わせた呼称)から車で小一時間、とうもろこし畑に四方を囲まれたノースフィールド市(人口は1万7千人)、同じくツインシティ郊外のイーデン・プレーリー市(人口は5万5千人)における、自治体のブログ活用の状況をレポートする。
会議二日目は、会場をミネソタ州ノースフィールド(northfierd)市に移した。ツインシティ(首都セントポールと隣のミネアポリスを合わせた呼称)から車で小一時間、とうもろこし畑に四方を囲まれた大学町(人口は1万7千人)が、「公共ブログ」発祥の地といわれている。
公共ブログとは、自治体の首長や幹部職員あるいは地方議会の議員などが市民との対話ツールとして活用するブログ(blog)のことである。
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グリフ・ウィグリー氏 |
このセッションには、ノースフィールド市だけでなく、同じくツインシティ郊外のイーデン・プレーリー(Eden Prairie)市(人口は5万5千人)からも「公共ブロガー」がパネリストとして出席。ノースフィールド市を「草の根」型とすれば、イーデン・プレーリー市はトップダウンの「行政」型、と位置付けできる。
この二つのコミュニティをつなぐ要となる人物が、グリフ・ウィグリー(Griff Wigley)氏だ。「公共ブログ」の仕掛け人というべき存在である。氏は、英国の「ローカルe-デモクラシー構想」にも一役買っていて、コラム第2回で紹介したロンドンのキングストン・アポン・テムズ区議会議員のリード氏のブログの指南役などを務めている。
■市の幹部の人間性を映し出す公共ブログ
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ノースフィールド・ドット・オルグ |
さらにウィグリー氏は、自らのブログ体験から「公共ブログ」を思いつき、地元から州議会に当選したばかりのレイ・コックス(Ray Cox)氏を口説き、ブログを立ち上げさせた。2002年12月のことである。
その後、旧知のスコット・ニール(Scott Neal)氏を勧誘している。ニール氏はイーデン・プレーリー市のマネージャー(助役)だ。(アメリカの小規模な地方自治体では、首長はパートタイムなので、議会が採用したマネージャーが日常の業務を仕切っている)。
「ブログは、市の幹部の人間性を映し出すことになる。また、市民からすれば、トップが思っていた以上にアイデアや提案やフィードバックにオープンなことに気づくことにもなる。トップの対応度や施策をめぐる質問への姿勢などから、本音や人となりを垣間見ることができる」、とウィグリー氏は公共ブログの効用を解説する。官僚的な受け答えに終始しがちな公式サイトでこそ、人間味をかもし出すブログが輝くという。
■市の公式サイトに幹部職員のブログが——イーデン・プレーリー市
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イーデン・プレーリー市のサイト |
ニール氏は、独断でブログ立ち上げを決意した。「市長や市議会に許可は求めなかった」と語る。
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スコット・ニール助役 |
「ブログがどういうものか理解していなかったが、情報提供、つまり市役所のインサイダーからの説明や意見を市民に伝えるツールという位置付けだった。数字だけの客観的情報ではなく、人間のからんだ情報である。やり始めて気がついたことは、ブログは市役所職員へのコミュニケーション・ツールとして有効なことだ。ブログを読んでいれば、市にとって何が重要かという私の考え方が理解できるので、私が不在のときでも、業務に支障が生じない」。
ブログ効果を確信するニール氏は、次に警察、そして今年になって消防署のトップにブログを義務づけた。イーデン・プレーリー市の公式サイトの下段に「Weblogs」というボタンがあり、これをクリックするとニール氏、ダン・カールソン(Dan Carlson)警察署長、ジョージ・エスべンセン(George Esbensen)消防署長の各ブログをのぞくことができる。
書くことは苦にならない」両氏だが、共に「ナンバーワン読者は部下」という。「間違いがあれば、すぐに指摘してくれる。最近は、部下も外出のときにはデジカメを携帯、いい材料があれば提供してくれる」、とエスベンセン氏はチームワークを強調する。
内部的効用はともかく、対象はあくまで市民。「我われの仕事で一番大事なことは、市民の信頼である。ブログは、信頼を築くツールの一つ」とカールソン氏は評価する。
■市職員のブログをコミュニティに登録——ノースフィールド市
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ゲリー・スミス警察署長 |
一方、ノースフィールド市役所は、職員ブログを奨励していはいないが、警察署長、地元選出の州議会議員、市議会の議員、教育委員会の委員などが、ウィグリー氏がほぼ独力で運営しているコミュニティ・ブログ「ノースフィールド・ドット・オルグ」に個人ブログを開設している。
このセッションには、ノースフィールド市からゲリー・スミス(Gary Smith)警察署長、ベツィ・バックハイト(Betsey Buckheit)氏(市企画委員会のメンバー)、それにロス・カリア(Ross Currier)氏(NPO代表)がパネリストとして出席した。
スミス氏のブログ歴は、ちょうど1年になる。「書くことが好きだ」というだけあって、週末を含むほぼ毎日ブログを更新している。家族の写真も頻繁に登場する。「少しでも人間性が出るように、家族などの私的な側面に触れることが多いが、論争になるような話題は避けるようにしている」、と配信側の工夫を明かす。
ノースフィールド市のコミュニティ・ブログは、ウィグリー氏のような活動家の存在を抜きにして考えられないが、e-デモクラシーの観点から見ると、新しい「公共スペース」の登場という意味で興味深い試みといえよう。また、電子政府を視点にすれば、イーデン・プレーリーの行政ブログは、市民と行政に人間的なつながりを再構築する一歩なのかもしれない。
※ この記事は『日経BPガバメントテクノロジー』第9号(2005年10月1日発行)に掲載した記事を基に再構成したものです。
![]() ジャーナリスト。1950年生まれ。上智大学卒業後、渡米。南イリノイ大学博士課程修了(哲学)。ペンシルバニア大学博士課程(政治学)前期修了。AP通信記者、TIME誌特派員、日経国際ニュースセンター・ニューヨーク支所長、日本経団連のシンクタンク21世紀政策研究所研究主幹を歴任。現在は在米ジャーナリスト。訳書に『インターネットは民主主義の敵か』(毎日新聞社)がある。 |