■国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)は2004年 6月、「地方自治体IT調達協議会」を組織し、調査研究を実施した。今年8月に協議会がとりまとめた調査結果から、自治体IT調達改革の現状を明らかにする。(庄司昌彦=地方自治体IT調達協議会事務局、国際大学GLOCOM助手)

※ この記事は『日経BPガバメントテクノロジー』第9号(2005年10月1日発行)に「特集2 IT調達の波に乗り遅れるな」の「第1部 調査・分析編」を掲載したものです。

 地方自治体のIT調達の現状やその改革への取り組みの全体像は、これまでよく分かっていなかった。全国的な状況を表した網羅的な調査がほとんどなかったためだ。当然、その現状に基づいた研究や政策提言なども、ほとんどなかった。

 大手ベンダーによる寡占化や安値入札といった問題は、中央省庁のみならず地方自治体でも起きているといわれていた。一方で、IT調達の問題を早くから認識し、中央省庁に先んじて解決に向けて取り組んできた地方自治体もある。例えば岐阜県は、加点式総合評価方式による一般競争入札や情報システムのライフサイクルコストを考慮した調達などを実施してきた。岐阜県の取り組みは、中央省庁のIT調達改革のたたき台となった「ソフトウェア開発・調達プロセス改善協議会」での議論でも反映された。

 こうした自治体のIT調達改革の効果や進ちょく状況を調査し、成果をまとめれば、自治体の改革に貢献することができる。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)ではこう考えて2004年6月、「地方自治体IT調達協議会」を組織して調査研究を実施した。

 以下では、今年8月に完成した協議会の調査研究活動の成果(「地方自治体IT調達改革加速化調査研 究」)を基に、地方自治体におけるIT調達の現状とその問題点などをまとめる。なお、本稿では原則として「IT調達」という言葉を、「ソフトウエア開発を伴う情報システムの調達」という意味で使用している。

■IT調達の改革手法を2分野・4類型に整理

 協議会では、17の地方自治体のIT調達担当者にヒアリングを実施した。当初は、地方自治体も中央省庁の改革に準じて、EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)やCIO補佐官の導入を実施あるいは検討しているのではないかという仮説を持っていた。だが、実際には、中央政府のような形でEAを導入している地方自治体はほとんどなく、IT調達改革の取り組みは非常に多様だった。

 そこで、地方自治体が実施しているIT調達に関する様々な施策(問題解決手法)と、その施策が解決しようとしている問題、その原因の関係を分析し、分類整理した(表1-1)

■表1 IT調達改革施策の分類
大分類 改革の
分野・類型

説明
図1の項目
入札制度
改革
入札制度
適正化
入札方式、契約条件などの制度を変更する。綜合評価方式一般競争入札の導入、 複数年度契約の導入、SLAの導入など 総合評価
方式事例がある
複数年度
契約事例がある
地域産業
振興
入札に関する制度を変更することで、IT調達による地元のIT産業の振興を狙う。 入札参加資格を地域内に事業所がある企業に限る、地元企業とのジョイント ベンチャー(JV)による入札を促す、小規模案件に分割して発注する、など JVの入札
参加事例がある
IT調達による
地域産業振興の
制度・工夫
開発
プロセス
改革
ガイド
ブック型
各部署が分散的にIT調達を行うことを前提に、情報化担当部署が調達業 務のためのマニュアルを作成する。IT調達の進め方や注意点を明示するこ とによって、地方自治体全体のIT調達能力を向上させる SI事業者との
長期契約
SI
連携型
情報化担当部署が中心となってIT調達を行うことを前提に、SI事業者やコ ンサルティング会社に調達業務の補助を求める。外部からIT調達の実施 に必要な専門知識を導入し調達能力の向上を狙う 原課向け
マニュアルの
作成
自前
設計型
情報化担当部署が中心となって地方自治体が開発プロセスを管理し、モジ ュール単位などに小分けして発注する。地元中小ベンダーの受注を増やす ことを目的として、長崎県が行っている 設計と開発の
分離
サブシステムに
分けた調達
開発と
運用の分離
限定
改善型
各部署が分散的にIT調達を進め、開発プロセスの改善については積極的 な対策を採らない。最も一般的な形態で、まだ改革の途上にある地方自治 体がここに分類される -
その他 情報化全般
担当CIOを
任命

■図1 地方自治体のIT調達関連施策の実施状況
図1 地方自治体のIT調達関連施策の実施状況

 まず、入札制度改革を2分野に分けた。総合評価方式一般競争入札の導入、複数年度契約の導入など、入札方式や契約条件などを変更する「入札制度適正化」。入札に関する制度を変更することで、IT調達による地元のIT産業の振興を狙う「地域産業振興」である。

 加えて、開発プロセス改革を手法ごとに4類型に分けた。(1)各部署が分散的にIT調達を行うことを前提に、情報化担当部署が調達業務のためのマニュアルを作成する「ガイドブック型」。(2)情報化担当部署が中心となってIT調達を行うことを前提に、SI事業者(ベンダーやコンサルティング会社)に調達業務の補助を求める「SI連携型」。(3)情報化担当部署が中心となって地方自治体が開発プロセスを管理し、モジュール単位などに小分けして発注する「自前設計型」。(4)各部署が分散的にIT調達を進め、開発プロセスの改善については積極的な対策を採らない「限定改善型」である。

■入札制度改革は市より都道府県が先行

 協議会では、この2分野、4類型に対応する形で、表1の右欄のように10項目の評価指標を設け、都道府県と市を対象とする施策の実施状況調査を行った。結果は図1の通りだ。市については人口規模別に掲載している。

 調査の結果、すべてのIT調達改革施策において、都道府県の方が市よりも実施比率が高いことが明らかになった。市のなかでも、規模が小さい地方自治体ほど取り組みは遅れている傾向が高い。10項目の指標を10点満点と計算すると、都道府県では5点、6点、7点を取った団体が多かったのに比べ、市では1点の団体が最多だった。

 都道府県と市との間で特に大きな違いが出たのが、複数年度契約の有無についてである。IT調達に際して複数年度契約を行った事例があると回答した都道府県は53.2%。これに対して、市はわずか9.6%だ。総合評価方式一般競争入札の導入も格差が激しく、「行ったことがある」と回答した都道府県が57.4%なのに対して市では16.2%だった。

 開発プロセス改革については、SI事業者との継続的な契約を結んでいると回答した都道府県が21.3%に対して市は3.0%。ガイドブックやマニュアルを作成しているのは、都道府県34.0%に対して市が5.4%。サブシステムに分割して調達した事例があるのは都道府県23.4%に対して市が6.0%であった。

 なお、これらの改革施策を最も多く実施していたのは、都道府県では宮城県、岐阜県、三重県、大阪府、島根県、愛媛県、高知県、佐賀県、宮崎県(10項目中7項目)。市では、東京都三鷹 みたか市、島根県出雲いずも市、広島県広島市(10項目中6項目)だった。