■鳥取県は1996年にグループウエアとしてロータスノーツを導入し、2001年にはパソコンの1人1台体制を確立した。出張や研修時には外部からモバイルアクセスできる環境も1999年に導入したが、回線速度やセキュリティの観点から見直しを図り、2004年8月にリモートアクセス環境を再構築した。(安藏靖志=ライター/エディター)


※ この記事は『日経BPガバメントテクノロジー』第8号(2005年7月1日発行)に掲載された記事を基に一部加筆したものです。


 電子申請や電子決裁システム、グループウエアを用いた情報共有などによって、各自治体では業務の効率化を推進してきた。その反面、長期出張や研修などの際に庁内ネットワークにアクセスできないと、業務の停滞につながってしまう。そこで鳥取県は、1999年からPHS端末や携帯電話を利用したリモートアクセス環境を整備し、外部から庁内ネットワークのロータスノーツサーバーへの接続を行えるようにしてきた。

 いわば「先進モバイル自治体」である鳥取県だが、「回線速度の遅さ」と「セキュリティ」の二つの問題を抱えていた。

 鳥取県では、64kbpsのPHS回線と9600bpsの携帯電話回線を選べる端末を利用してモバイルアクセスを可能にしていた。しかしPHSは利用エリアが狭いため、携帯電話回線を用いなければならない場面も多い。ネットワークにアクセスしてからノーツを開き、メールを読み込むまでに多くの時間を要していた。また庁内ネットワークへのアクセス制限は、電話端末の番号通知と端末に付与されたID、パスワードだけで行われていたため、セキュリティ面も決して堅固ではない。

■出張時などの業務支援用に、貸し出し用ノートPCを用意

図1 外部接続用のID申請やノートパソコンの貸し出し申請はノーツ上で行う。

外部接続用のID申請やノートパソコンの貸し出し申請はノーツ上で行う。

 そこで鳥取県では、シトリックス・システムズ・ジャパンの「MetaFrame Presentation Server」を採用してリモートアクセス環境を再整備した。MetaFrameが一般的なリモートアクセスサーバーと異なるのは、メールや書類などのデータをネットワーク上でやりとりしないところにある。いわゆるシン・クライアントと呼ばれるシステムだ。グループウエアのロータスノーツやマイクロソフトワードなどのアプリケーションをクライアント側ではなくサーバー側にインストールし、サーバー側でアプリケーションを操作するのである。

 つまり、サーバーからネットワークを通じてクライアントに送信されるのは、庁内にあるサーバーで実行したソフトウエアの「画面」であり、データそのものを送受信するわけではない。このため例えば10メガバイトのWord書類をPHS回線などを通じて開いたとしても、数秒から十数秒程度の時間しかかからないという。

 導入前の2003年7月に鳥取県港湾事務所と本庁との間でMetaFrameの実証実験を行っている。港湾事務所と本庁は当時64kbpsの専用線で接続されていたが、ロータスノーツでメールボックスを開くまで30秒、113キロバイトのメールを開くために40秒、掲示板の678バイトのデータを開くのには2分10秒も要した。同じネットワーク環境でMetaFrameを使用したところ、メールボックスを開くまで3秒、113キロバイトのメールは1秒、掲示板の678バイトのデータは2秒で開くことができたという。

 システムの導入費用は約1780万円で、現在55ユーザーが同時にアクセスできるようになっている。サーバーOSはWindows Server 2003を利用しており、基本的にはサーバーにインストールできるアプリケーションであればリモート環境からも問題なく利用できているとのことだ。行政経営推進課はMetaFrameサーバーの導入と同時にノートパソコンを10台導入し、職員の出張時にPHS端末と合わせて貸し出している。ノートパソコンの稼働率は75%程度と上々だ。