Microsoft MVP for Security
エネルギア・コミュニケーションズ
濱本 常義氏

著者紹介
 エネルギア・コミュニケーションズにて,ネットワーク・セキュリティに関する業務(セキュリティ監査,セキュリティ・ポリシー構築)に携わる。常時接続とネットワーク・セキュリティのコミュニティconnect24hの管理人。オフライン・コミュニティ「セキュリティもみじ」代表。著書に漫画「アクセス探偵IHARA」,「情報セキュリティプロフェッショナル総合教科書」がある。
 

 みなさんはIT分野の「コミュニティ活動」がどのようなものかご存じでしょうか。現在の日本には,人々が特定のテーマの下に仕事を抜きにして集まるIT系のコミュニティが多数存在します。かくいう私も,常時接続とネットワーク・セキュリティをテーマとしたメーリング・リスト(ML)「connect24h」を運営するとともに,広島を拠点とする地域密着型情報セキュリティ勉強会「セキュリティもみじ」を主催しています。

 しかし,「個人がやっているコミュニティなんて知らないよ」という方も多いかもしれません。かつてのIT系コミュニティはユーザー会やMLなどの「大規模参加型」が主流でした。一方,近年はブログやオフラインの勉強会を主な活動の場とする「小規模分散型」のコミュニティが主流になっているからです。

 今回は,なぜIT系コミュニティが小規模分散型になったのか,そして私がなぜそのようなコミュニティ活動をしているのかについてお話ししたいと思います。

コミュニティ活動の変遷
 インターネットの成立以来,IT系コミュニティのツールといえば,MLとネット・ニュースが主流でした。セキュリティ分野の草分け的なコミュニティである「Firewall Defenders」もMLでしたし,今も多くのコミュニティがMLをベースに活動しています。また「2ch」のような匿名掲示板も流行しました。これは現在でも1つの文化を形成しています。

 MLや掲示板のようなコミュニティ・ツールの特徴は,「1対n」または「m対n」の多人数型コミュニケーションであったことです。それに対して2002~2003年ごろから,「ブログ」や「はてなダイアリー」といった個人ベースのコミュニケーション・ツールが一気に普及しました。MLや掲示板のような「1カ所に多人数が集まる大規模参加型コミュニティ」は影を潜め,個人がそれぞれの場所で情報を発信し,それに「コメント」や「トラックバック」といった形で反応する「個対個」または「個対少人数」の「小規模分散型」のコミュニティが主流になったのです。

 新旧どちらの形態にも,メリットとデメリットがあります。大規模参加型が主流だった時代は,情報は1カ所に収束される傾向があり,情報の交換や収集は容易でした。それに対して小規模分散型のコミュニティが主流となった現在では,良い情報がWebに散在するようになり,「アンテナ」のようなWeb巡回ツールを駆使しなければ,情報を効率的に収集できないようになっています。

 とはいえ,小規模分散型が隆盛となった背景には,大規模型コミュニティが衰退していたという事情もあります。大規模型コミュニティでは,時がたつと主要な発言者が限られてしまい,議論が予定調和に陥りがちでした。それに比べて現在多数存在している小規模型コミュニティでは,様々な才能のコンテンツが生まれています。

情報密度の濃いオフライン勉強会
 小規模型コミュニティの究極の形として現在勢いがあるのが「オフラインの情報セキュリティ勉強会」です。個人や非営利団体が手弁当で主催する勉強会で,草分け的存在は,Microsoft MVPであるport 139の伊原秀明氏が主催する「セキュリティアカデミー」です。

 これをきっかけに,オフラインでの勉強会が各地で開催されるようになりました。私が主催する「セキュリティもみじ」もその流れの中から生まれたコミュニティの1つです。ここ数年来のIT系コミュニティを振り返ると,「大規模型から数十人規模の勉強会へ」という潮流が見て取れます。私のコミュニティ活動歴も,この流れに沿ったものでした。

 私がコミュニティ活動に参加したきっかけは情報収集でした。私が今の会社に入った1995年当時は,技術的な質問ができるパスは社内でも限られていました。そこで,インターネット技術やWindows NTシステムの情報を収集するために,MLやネット・ニュースを使い始めました。

 その後,ネットワーク・セキュリティ分野に興味を持ち,閉鎖する直前(2000年ごろ)の「Firewall Defenders」のBOF(Birds Of a Feather,オフライン会合)に参加しました。これが,私がオフラインのコミュニティ活動に触れた最初の機会でした。

 オフラインでの情報交換の密度は,仕事での情報交換の比ではありません。「コミュニティ活動は勉強になるし,勉強で得た技術は本業に転用できる。しかも,オフラインのコミュニティ活動はさらに情報密度が濃い」と痛感しました。ただし,「ネットでの活動の成果がオフラインでの発言権の強さになる」ということにも気づきました。

 そこで私は,「ネットで一目置かれる存在になりたい」と思い,自分もコミュニティを主催してみようと思いました。

 ただし当時の私は全くの無名ですし,「濃い人」が来ないと良いコミュニティは成立しません。そこでいろいろと考えた末に,当時始まったばかりのフレッツISDNに目をつけ「これからは常時接続だ! 常時接続にはセキュリティが必要だ!」ということでconnect24hを立ち上げました。

 運のよいことに,connect24hは自宅サーバーを立ち上げようというLinuxコミュニティの人々とWindowsコミュニティの人々の情報交換の場として集客に成功しました。また,Firewall Defenders閉鎖後の受け皿として,あるいは2001年頃に頻発したWeb改ざん事件の情報交換の場として順調に成長し,最盛期には4000名が参加するまでに育ちました。

 もっとも,connect24hもオンライン・コミュニティの常として,開設から5年もたつとMLとしての最盛期を越えてしまいました。コミュニティが一番面白いのはメンバーが数百名~1000名までの時期であり,それを超えるとよい意味でも悪い意味でもMLが枯れてしまい,やがて衰退していきます。幸いconnect24hは私が定期的に情報提供していることもあり,コミュニティを形成していますが,いずれは時代の流れとともに,無くなってもおかしくないと思っています。

 そういった状況を考慮するとともに,「オフラインで楽しく情報交換できる場が東京にしかないのはもったいない。広島でも濃い話ができる仲間を作りたい」と思って立ち上げたのが「セキュリティもみじ」になります。

 セキュリティもみじでは8月20日に,第3回の勉強会を開催しました。夏休みということもあり,2500円という有料の勉強会ながら,北は筑波から南は福岡まで,50名近くの集客があって大盛況でした。集客が多かったおかげで,東京から講師としてきていただいたセキュリティ分野のトップ・ランナーの方に,交通費と宿泊費,さらに若干の謝礼までお支払いできました。

 私独りで勉強会を開催するのは無理ですが,コミュニティを通じて人々が集まってくださることで,このような大きな成果を上げられました。私の好きな言葉に「夢見るチカラ,形にするチカラ」というものがあります。夢を実現するには夢を見る力だけではなくて,実現できる力を育もうという言葉です。私はコミュニティ活動を通じて,この力を得られると考えて,日夜コミュニティ活動を行っています。

 皆さんもコミュニティ活動に参加してみませんか? 悩んでいた道が開かれるかもしれません。皆さんのコミュニティ参加をお待ちしております。


(日経Windowsプロ2005年10月号より)



Microsoft MVPとは…
 Microsoft MVP(Most Valuable Professional)とは,MS製品のユーザー会やメーリングリストなどでユーザーのサポートをしている人の中でも,特に貢献度が高いとMSが認定したプロフェッショナル。Windows ServerやSQL Serverなど部門ごとに認定されている。