米Microsoftが示したサーバー製品の64ビット・プラットフォームへの移行計画が,大きな話題を呼んでいる。Microsoftは2005年11月,スペインのバルセロナで開催した「Microsoft IT Forum 2005」で,32ビット・サーバー・ソフトウエアの64ビット移行計画を明らかにした。同社がx86互換の64ビット・プラットフォームである「x64」を支持しているのは広く知られたことであり,64ビットへの移行自体は驚きではない。多くのユーザーを驚かせているのは,32ビット・バージョンのソフトウエアのリリース終了が,急速に進むことであった。

 ほんの1年前,Microsoftがx64システム用に,32ビット版と機能的に見劣りしないWindows Server 2003をリリースするということは,ビッグ・ニュースだった。しかし今では,Microsoftは全力でx64システムへ移行しつつある。今後は多くの製品が,x64版しかリリースされなくなる。これらの製品の中で一番目立つものは,2006年末以降に出荷予定の「Exchange 12」である。MicrosoftはExchange 12に関して,x64システム用しか提供しないと言っている。32ビット・バージョンは提供されなくなるのだ。

 このニュースはMicrosoftのユーザーの一部に懐疑と衝撃を与えた。しかし,Microsoftによると,ユーザーは既にかなりの台数のx64ハードウエアを導入済みだという(使われているOSは32ビット・バージョンのWindows Server 2003だが)。そして2006年までに32ビットのx86サーバー製品は,ほぼ完全に生産終了になるという。

Exchange 12は64ビット化で性能が大幅強化
 Microsoftによれば,Exchange 12はx64化することによって,機能が大幅に強化されるという。同社の社内テストによれば,同じハードウエアを使った場合,Exchange 12をx64対応にした方が,I/O処理性能が75%向上する。つまり,x64上のExchange 12システムは,32ビット・バージョンよりも4倍のユーザーをサポートできるということである。スケーラビリティの向上によって,サーバー統合などが可能になり,コスト削減が実現するだろう。

 しかし,Exchangeのアップグレードと移行に関するMicrosoftの方針に関して,多くのユーザーが不満を感じている。一般的に,新しいバージョンのExchange Serverは,新しいバージョンのWindows Serverでしか動かないことが多い。これは,コスト上昇や管理の複雑性増大に直結する。しかもExchange 12への移行は,非常に難しいものであるようだ。

Longhorn Server R2はx64版のみ
 x64プラットフォームに移行するサーバー製品はExchange 12だけでない。2007年に出荷が予定されている「Longhorn Server」(開発コード名)は,当初は32ビット・バージョンとx64バージョンの両方がリリースされるが,2007年内の出荷が予定されるマイナー・バージョンアップ「Longhorn Server R2」は,x64バージョンしか出荷されないもようだ。

 ただしMicrosoftは,Longhorn Serverの出荷後すぐに,32ビットのWindows Serverのサポートを終了するわけではない,と強調している。Microsoftのグループ・プロダクト・マネージャであるSam Distasio氏は「私たちは,2012年まで32ビット・バージョンのLonghorn Serverをサポートする予定です。2017年までは延長サポートが利用できます。ユーザーは,32ビット版を使い続けることも可能です」と語っている。Windows Server 2003のサービス・パックは,32ビット・バージョンとx64バージョンの両方がリリースされる予定だ。

 2006年初めに出荷が予定される「Windows Compute Cluster Server 2003」も,x64バージョンしかリリースされない。他の製品,例えば「SQL Server 2005」や「Virtual Server 2005」は,少なくとも2006年中は32ビット・バージョンとx64バージョンが継続して出荷される。Longhorn Serverが出荷されるころには,他のサーバー製品も恐らく,x64バージョン(あるいは場合によってはItaniumバージョン)に移行し始めるだろう。

 Itaniumといえば,MicrosoftはItaniumプラットフォーム上でのVisual Studio 2005や.NET Framework,SQL Server 2005,Windows Server 2003 Enterprise Edition/Datacenter Editionのサポートを継続する予定だ。Microsoftは,x64がItaniumの性能(特にスケーラビリティ)を上回るのは,かなり先のことになると考えているようだ。x64が唯一の64ビット・プラットフォームになるまでは,Microsoftはハイエンドの負荷をこなすためだけに,Itaniumを限定的にサポートするだろう。

 x64ハードウエアは,Microsoftの言うように本当に急速に企業向けの市場で広く普及するのだろうか。またMicrosoftのx64への移行は,性急に過ぎるのではないだろうか。やや不安を感じている。