■Windows Vistaは2006年後半に出荷される。このまだ生まれていない次世代OSは,Windows NT以来のセキュリティ・モデルを変更し,画面描画に新しいAPIを用意するなど,大掛かりな変革を予定している。そのインパクトは,Windows NTからWindows 2000へのバージョンアップよりも強烈といっても過言ではない。今から備えるWindows Vistaの姿を「総論」「ユーザー・インターフェース編」「セキュリティ編」「展開・管理編」の4回に分けて紹介する。
本特集では,動作検証に米国で9月に開催された開発者向け会議PDC(Professional Developers Conference)2005で配布されたWindows Vista CTP(Community Technology Preview)英語版を使用した。 |
![]() オービック ビジネスコンサルタント 日野和麻呂 開発本部課長 |
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図1●Windows Vistaの主な新機能/強化点 |
(1)のユーザー・インターフェースは,デスクトップの3D表示や半透明なウインドウ枠など,現在の3Dグラフィックス・チップの機能を活用したものになる。そのために,Windows Vistaでは新しいドライバ・モデルを導入した。また画面のDPI(1インチ当たりのドット数)を任意の値に設定可能になり,解像度の割に画面が小さいノート・パソコンでも見やすい大きさで表示できるようになる。ファイル・システムをデータベースとして扱うWinFSの搭載は見送られたものの,著者名やキーワードを基に一瞬にしてファイルを検索・分類できる仮想フォルダ機能は予定通り実装される。
(2)のセキュリティ関連では,これまでのアクセス・トークンの扱いを変更し,管理者であっても通常は制限ユーザーの権限しか与えられないようにする機能を追加する。これにより,ログオン・アカウントを一時的に変更するRunAsコマンドも過去のものとなるはずだ。加えて,異なるプロセスのウインドウ間におけるデータの受け渡しにもプロセスの権限が関係するようになり,テキスト・ボックスに入力したパスワードが盗まれるといった危険性が低くなる。
(3)の展開・管理に関しても,細かいながらも数多くの新機能を搭載する。例えばディスク複製用のファイル・フォーマットWindows Imaging Format(WIM形式)が新たに定義され,WIMを利用するためのAPIやWIMを使用するディスク複製ツールなどが提供される。タスク・スケジューラやイベント・ビューアなどの標準で付属するツールも強化され,市販ツールを購入しなくてもある程度のことができるようになるはずだ。
この連載では以上の3つの視点から,Windows Vistaの新機能の仕組みを紹介していく。
このほか,Windows Vistaでは64ビット環境の本格利用も期待できる。Windows Vistaは32ビット版と64ビット版の両方を用意する。64ビット版を正式にサポートするデバイスや,64ビット・ネイティブ・アプリケーションも増加するはずだ。
![]() 市川ソフトラボラトリー 市川芳邦 代表取締役 |
既に導入を決めた企業も
![]() 飛島建設 西内克至 管理本部情報システム部企画課主任 |
![]() 中部電力 山田健史 情報システム部システム計画グループ課長 |
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図2●出荷が予想されるWindows Vistaのエディションと搭載する機能 |
今から準備しても早すぎることはない
大掛かりな変更/機能強化を実施する以上,既存のアプリケーションがWindows Vistaで動作するかどうかを検証するにはそれなりの時間が必要だ。万一問題が見つかった場合に修正する期間も見込んでおく必要がある。特に,セキュリティや画面表示については入念にチェックしたい。
例えば,レジストリの特定のキーにアクセスできるかどうかで管理者か一般ユーザーかを判断し,それによって動作を変更しているようなアプリケーションでは問題が発生する可能性がある。Windows Vistaでは,管理者であっても制限ユーザーの権限でアクセスすることや,逆にレジストリの仮想化によって制限ユーザーでもアクセスが許可されることがあるからだ。
画面のDPIの設定を任意に変更できるようになる点も重要だ。既存のアプリケーション多くは96DPIを前提に開発されているため,ほかのDPIでは表示が崩れる可能性がある。また仮に96DPIで表示するにしても,表示に使われるフォントの大きさなどが微妙に変更されると,問題が発生することがある。帳票形式の出力では,文字のサイズなどが少し変わっただけでも領域からはみ出て見えなくなったりする。
中部電力では,Windows 2000にService Pack 2を適用したときに文字ピッチが変わったことが原因で,自社開発したJavaアプリケーションの画面表示が崩れるという障害が発生した。このときはアプリケーション側のコードを修正して乗り切ったが,膨大な時間を要したという。Webアプリケーションの場合でも,互換性の検証は欠かせない。Windows Vistaに付属するInternet Explorer 7は,CSS(カスケーディング・スタイル・シート)の扱いを変更する予定だからだ。「Windows Vistaベータ1のリリース時点で,自社が販売する会計ソフトの動作検証を開始した」(オービックビジネスコンサルタント日野氏)という開発ベンダーもある。
システム管理者の場合も,業務アプリケーションなどの動作検証が必要な点は開発者と変わらない。本格的な検証はまだ先になるにしても,障害が発生しそうな部分について見当をつけておくことは有効だ。1年後の出荷に備えてWindows Vistaの機能をいまから知っておきたい。