Microsoft MVP for SQL Server
コザック代表取締役社長
河端 善博

著者紹介
 1984年,ダイナウェアにて建築用3次元パース作成システム,建築用2次元CADシステムの開発に従事。1994年,クボタシステム開発へ転職。Windowsシステムの開発や構築に従事。また,Windows関連の雑誌記事の執筆,ASP,ADO,ADSI関連の翻訳監修を行う。2004年末に,Windowsホスティング・サービス「Cervi(セルヴィ)」を提供開始し,日々,運用と改善に従事。
 

 私は昨年(2004年)末から,Windowsサーバーのホスティング・ビジネスを始めました。Windows Server 2003を共有してWebやFTP,メール,SQL Serverを利用できるサービスです。もちろん,ASP(Active Server Pages)やASP.NETも利用できます。ご存じの通り,日本でWebホスティングといえばLinuxが主流です。それなのになぜWindowsホスティングを始めたのか。その理由や,Windowsホスティングを運営する上で実感したWindows Serverの実力について紹介したいと思います。

 私の本業は,WindowsやSQL Serverを使ったシステムの開発やコンサルティングです。これまで様々な開発案件に参加してきました。一方,コミュニティ活動では,SQL Serverユーザー会「PASSJ(パスジェイ)」や.NETコミュニティ支援組織「INETA」に参加しています。

 数多くの顧客やコミュニティの方とお話する中で,Windows ServerやInternet Information Services(IIS)のパフォーマンスや豊富な機能,さらにASPやASP.NET,SQL Serverの開発生産性の高さや信頼性は,十分に認知されていると感じています。それは,イントラネットの情報システムや基幹系システムとして,多くの企業内でWindows Serverが活用されていることからも分かります。

 しかし,いざインターネットとなると状況が変わります。日本のホスティング・サービスの大半はLinuxです。Windows Serverを使ってインターネット向けのサービスを始めようと思ったら,自社でサーバーを運用しなければなりません。コスト面や保守面で,Windows Serverを使ったインターネット向けサービスは難しいという意見が多く聞かれました。

 「個人で.NETのコミュニティを立ち上げて,ASP.NETで開発したWebアプリケーションを公開したい」「Windows Serverを使ったWebのサービスを月額数千~数万円で提供したい」「自社のWebサイトをASP.NETで構築したい」——と思っても,Windowsホスティングは長い間高根の花だったのです。

海外では強いWindows
 ところが日本以外の国では,魅力的なWindowsホスティング・サービスが,使いやすい価格や魅力的な機能を備えて次々と提供され始めています。

 調べてみると,海外でWindowsホスティングが盛んになった背景には,ホスティング事業者向けの専用ライセンス「SPLA(サービス・プロバイダ・ライセンス・アグリーメント)」の存在や,ホスティングを運用・保守するための技術資料やツールが数多く提供され始めたことがあると分かったのです。

 SPLAを使ってホスティング事業を行う場合,Windows ServerやSQL Serverは,月額払いのライセンス料金(利用者数またはプロセッサ単位で課金)で利用可能です。ホスティング・サービスを始める上で,ライセンスにかかる初期費用はほぼゼロであり,Linuxでホスティングを開始するのと大差ありません。

 また,ホスティング・サービスを提供する上では,サイト管理やメール管理,データベース管理などを実現する様々な管理ツールをユーザーに提供する必要があります。海外では,それらの用途に適したASPやASP.NETベースのパッケージ製品が既に登場していたのです。

 ユーザーの側にも違いがありました。海外では,ASP.NETとSQL Serverを活用するオンライン・ソフトがどんどん増えていたのです。ブログ・サイト構築ソフトの「.TEXT」(現在は「Community Server」)や,コンテンツ・マネジメント・システムの「DotNetNuke」が代表格で,ASP.NETに対するユーザーのニーズが高まっていました。

 海外の状況を考えると,日本でもASPやASP.NET, SQL Serverの良さを理解した上で,活用したいと思う方が出てくるのは間違いありません。そのニーズに応えるために,Windowsホスティング・サービスを始めたのです。

改めて感じたIISとASP.NETの能力
 Windowsホスティングを半年運営してみて改めて感じたのは,IISとASP.NETのポテンシャルの高さです。IISとASP.NETは,インターネットに情報を発信するためのソフトウエアとして,本当によく考えられ,改善されていると感じています。まず指摘できるのは,パフォーマンスと信頼性が非常に高いことです。

 当社は共有タイプのホスティングなので,パフォーマンスと信頼性が重要です。例えば,契約者1社のWebサイトでアクセス増加や処理の増大があっただけで,他のユーザーのサービスに影響が出ては困ります。IISの効率的なキャッシュ機能やASP.NETの実行性能の高さ,メモリーの効率的な管理によって,ブログ,掲示板,ショッピング・サイト,データベース・サイトなどの多様なWebサイトが,十分なパフォーマンスで稼働しています。

 信頼性で見ても,IIS 6.0のアプリケーション・プール機能やASP.NETのランタイムの安定性が,大いに威力を発揮しています。当社のホスティングでは,ショッピング・サイトやオリジナルのWebサービス・サイトを1つのサーバーで複数稼働させていても安定しています。

 Windows ServerによるWebサービスの提供は,日本では実績が少ないように見えますが,世界でみると十分な実績を上げています。世界にはWindowsホスティング技術者のコミュニティや情報交換の掲示板が数多くありますし,マイクロソフトのサポート技術情報をはじめ,各種書籍も提供されています。障害は多くの場合,これらの情報を頼りにすれば早期に対策できます。また,Microsoft Operations Manager(MOM)をはじめとした運用監視ツールも充実していているので,保守運用のコストを適正化するのに役立っています。

 最後に,Windows ServerでWebアプリケーションを提供する上でのポイントを紹介したいと思います。

 マイクロソフトはASP.NETを強力にプッシュしていますが,実際にはASPとMDB(Accessデータベース)でシステムを構築しているケースも多数あります。弊社のユーザーでも少なくありません。

ASP+MDBの構成は再考を
 しかし,このようなシステムはパフォーマンスに要注意です。弊社のようなWindowsホスティング事業者は,一般にネットワーク回線を十分に確保しています。そのため,お客様のサイトに想定以上のアクセスが発生する可能性があります。しかしASPとMDBは,アクセス数の増加によって劇的にレスポンスが低下する場合があります。これは,ASP.NETとSQL Serverの組み合わせに対して,同時実行性能が低いためです。実際,ASPとMDBのシステムでレスポンスが低下している場合でも,弊社のサーバーのCPUやメモリー,ネットワーク回線には,十分な余裕があることが多いです。

 もしASPとMDBの組み合わせで急速にレスポンスが低下する場合は,ASP.NETとSQL Serverの組み合わせに移行されることをお薦めします。

 そうは言っても開発工数がない,という場合のTIPSも1つ紹介しましょう。ASPからMDBデータベースにアクセスする「ADODB.Connection」の接続文字列を,ODBCドライバの指定からOLEDBドライバの指定に変更すると,レスポンスが向上する場合があります。ASP.NET+SQL Serverへの移行が難しい場合は,こちらを検討してみてはいかがでしょうか。

(日経Windowsプロ2005年8月号より)



Microsoft MVPとは…
 Microsoft MVP(Most Valuable Professional)とは,MS製品のユーザー会やメーリングリストなどでユーザーのサポートをしている人の中でも,特に貢献度が高いとMSが認定したプロフェッショナル。Windows ServerやSQL Serverなど部門ごとに認定されている。