米Microsoftは11月中旬にスペインのバルセロナで開催した「IT Forum 2005」で一連の重大な発表をした。このIT Forumを小規模版「TechEd」みたいなものだと思っているなら,今回の発表がその認識を変えるのに役立つだろう。ニュースなのは,Microsoftが64ビットに大掛かりに取り組んでいるということだ。Exchange Serverの次期版「Exchange 12」(開発コード名)とLonghornベースのWindows Small Business Server次期版,Longhorn Server R2は,すべて64ビット版だけになる予定だ(既報)。

x86を拡張した64ビット命令
 以前,私はx64テクノロジに関して,みなさんの意見を求めた。私はいくつか素晴らしいフィードバックと,多数の質問をいただいた。それらの質問に対して2回にわたり答えながら,Microsoftのx64サポート計画について,私が知っている限りのことをまとめようと思う。

 「x64」は,よく使われているx86の命令セットに対する拡張セットを指していることに留意されたい。これらの拡張には,2つのセットがある。米Advanced Micro Devices(AMD)は,自社の拡張を以前は「x64」と呼び(現在は「AMD64」),Intelは「EM64T」と呼んでいる。両方ともIntelのもう1つの64ビットCPUである「Itanium」とは,全く異なるものである。Itanium版のExchangeは多分,出ないだろう。

セキュリティ面でも大きなメリット
 なぜMicrosoftは,このx64を重視しているのか? 私がMicrosoftのWindows Server部門の製品管理担当ディレクタであるSamm DiStasio氏に取材したところ,彼の見解は単純だった。「ユーザーは,既にx64ハードウエアを購入しているし,x64は3つの重要なエリア(1)セキュリティ,(2)拡張性,(3)性能——で大きなメリットを提供できる」という。

 x64は2つのセキュリティ向上を提供する。第1にデータ実行防止機能「DEP」(data execution prevention)である。これはバッファ・オーバーフロー攻撃によって不正なコードが起動するのを防ぐ機能だ。メモリー内にあるデータにはタグが付けられ,プロセッサはデータとしてタグ付けされたものの実行を拒否する。

 もう1つの新しい技術は「PatchGuard」で,これはもっと面白い。PatchGuardは,ユーザー・モードのプログラムがカーネル・ルーチンをパッチするのを邪魔するのだ。マルウエア(不正ソフト)の作者はこの手口をよく使う。特にルートキットを書く場合は好まれる。

 拡張性と性能の高さは,「x64がサポートする極めて大きく拡張されたアドレス空間」と,「ネイティブのインストラクションの実行では,インストラクションごとのデータを2倍の速さで転送できること」によるものだ。既にx64版がある「SQL Server 2005」は目が飛び出すような「Transaction Processing Performance Council」(TPC)のTPC/Cベンチマークの数値を出したので,SQL Serverのユーザーはx64サーバーを買い急いでいる。

MSはx64版への移行を積極的に推進
 x64への移行を容易にするため,Microsoftは通常では考えられない施策を実施した。32ビット版と64ビット版のWindowsは,多かれ少なかれ互いに置き換えることが可能である。Windowsのx64版は特別なプレミアをとられないので,各OEMはそれらを32ビット版と同じコストで供給している。2005年4月15日から同年6月30日までの間,32ビット版のユーザーは追加コストなしにx64版Windowsへ移行することができた。

 現在は,ボリューム・ライセンス契約のユーザーだけが,追加コストなしに32ビット版からx64版へスイッチできる。x64への移行を大きく後押しするために,Exchange 12に移行するユーザーが追加コストなしにOSプラットフォームをスイッチできる場合に,無期限でそれを提供することをMicrosoftが検討することを期待する。

 もちろんx64のサポートには,64ビット版のドライバ・ソフトとアプリケーションが必要だ。ドライバのサポート問題は,サーバーよりもむしろデスクトップで大きな問題になる。一方ですべてのベンダーが現時点で,ネットワーク・インターフェース・カード(NIC)やSAN(ストレージ・エリア・ネットワーク)のホスト・バス・アダプタ(HBA)などのサーバー関連の装置について64ビット・ドライバをそろえているわけではない。

 さらに,すべてのアプリケーションが64ビットWindows上で利用できるわけではない。例えば,SAPとOracleは,32ビット版Windowsに制限される。カーネル・モードのドライバを必要としないアプリケーションはx64 Windows上でも32ビット互換モードで稼働できる。これはそういうことを考えた場合は完璧に役に立つ。

 Exchange側から見ると当然ながらExchange 12が64ビット版Windows上でしか動かないことはビッグ・ニュースだ。次回は,なぜMicrosoftがこのような決断をしたのか。そしてあなたにとって,どんな意味があるのかを解説する予定だ。