10月に開かれたMicrosoftのコンファレンス「Professional Developer Conference(PDC)2005」で,Officeチームのプログラム・マネージャであるJustin Harris氏と,既存のMicrosoft Officeのユーザー・インターフェースについて話をした。

Office 12はすべてを脱ぎ捨てた結果
 彼が言うには,Office 12のユーザー・インターフェースは,それ以前のOfficeを飾ってきたツールバーとメニュー・システムをそっくり置き換えたという。理由は,同社がユーザーをきちんと信頼していなかったことにようやく気が付いたからなのだという。彼によると,PCユーザーたちは異なるOfficeアプリケーションの異なるユーザー・インターフェースをちゃんと使いこなせるぐらい賢い。同社は従来,何も考えずにWordとExcelとAccessのインターフェースをできる限り似たものにしようとしてきた。ところが現在は,各Officeアプリケーションが解決すべきことにとって意味があるようなインターフェースをきちんと実装する作業に取り組んでいるという。

 私はこの話にすごく勇気づけられた。新しいOffice 12のユーザー・インターフェースを最初に見ると,ちょっとした驚きにきっと襲われる(既報)。というのは見慣れない巨大なアイコンと,機能を並べたリボン型の帯が各アプリケーション・ウインドウの上部の4分の1に配置されているからである。

 実際にOffice 12の前に座って使ってみると,Microsoftがまさに何か重要なことをしている最中なのだと分かる。実のところ,Office 12のユーザー・インターフェースこそ,Microsoftがここ数年あるいはこれまでの間に出した技術の中で,最も革新的な特徴だろうと言い続けている。いつも他社のアイデアを取り入れて,自社のものとして販売してきた会社にとっては大きな変化である。

オンラインでWindowsとOfficeは活性化するか
 おお!そういえばこの会社はオンライン・サービスでも同じことをしていた。

 先日,MicrosoftのWebサービスのほとんどがMSN部門を通じて公開された。広く知られていないかもしれないが,MSNは過去数年にわたって数多くのいい仕事をしてきた。

 だが9月の再編で,MicrosoftはMSNをWindows担当の組織に引きずり込んだ。私が恐れたのは,Windowsの各チームが自分たちの昏睡状態に近い製品リリース・スケジュールにMSNを投げ込んでしまい,それを殺してしまうのではないかということだった。

 私が危惧していたことは,最良のシナリオだったと分かった。Microsoftは,文字通りMSNの看板を消して,やり方を変えている。実質的にMSNが取り組んでいたすべての製品とサービスは,Windowsに包るまれて,MSNのアイデンティティを取り除くために名前を変えられたのである。例えば,Microsoftは「MSN Messenger IM」クライアントを,「Windows Live Messenger」という名前に変更している。Hotmailの次期バージョン(以前「Kahuna」という開発コード名だったもの)は,「Windows Live Mail」として宣伝される。ほかもしかりだ。

 問題は,当然ながら「MSN」が消費者の脳裏にしっかり染み付いていたことだった。そして,消費者向けのオンライン・サービスは,Microsoftの頼みの綱である法人顧客の大部分に恐怖心を抱かせる。「Google Search」は素晴らしいが,ユーザーが不正確かもしれない情報に対して,無制限にアクセスするかもしれない。そういう考えは恐ろしいものだ。大企業は,コンピュータにファイアウオールやそのほかセキュリティ・ソフトを行き渡らせたように,そのうちオンライン・サービスにも厳格なやり方を適用するようになると,私は思っている。

組織外だからこそ成功していたMSN
 MicrosoftのWindows製品チームは一番儲かっているが動きも遅い。彼らにとって,すべての革新的なことは,自分の組織外で非常に短期間に起きていたと傍観していたというのが本当のところである。一方,MSNはWindowsグループを一見小ばかにしていた。MSNはそれほどうまくいっていたし,そうでなければならなかった。すべて社内政治のせいなのだ。

 全く感情的な理由は置いておいて,この動きがなぜ問題なのか。従来,MSNの製品とサービスが,WindowsやMicrosoftのほかの支配力のある製品と結び付けられる必要はなかった。MSN MessengerはWindows上でしか動作しない。それはOSにうまく組み込まれているが,OSに直接追加されたり,あなたがMicrosoftから入手したCD-ROMからデフォルトで直接インストールしたりすることはなかった。言い換えれば,MSNの製品とサービスは,オープンな市場で独自に競争をし,順調にいっていた。結果的にMSNは競争力を保ったまま,事態を改善するため素早く立ち回ってきた。

 Microsoftが製品とサービスを組み合わせる場合,Windowsの問題が出現する。第1に,革新に満ちて活発な開発が止まってしまい,アップグレードが以前より少なくなる。第2に,まれにしか更新されないコンポーネントは本来よりも緊密にOSに統合されることが多いので,システムのぜい弱さを増す原因となることがある。第3に,そういったコンポーネントはユーザーが後でアンインストールできないようにわざと設計されていることが多い。設計上ではアドオンのアプリケーションは自由にアンインストールできるはずだ。Windows Live製品とサービスがデフォルトでWindows Vistaに組み込まれるだろう(該当サイト)。

 Office側では,MicrosoftはOffice向けのOffice Liveと呼ぶオンライン・サービスも提供している。こうしたサービスは現時点ではWindows Liveサービス群と違ってうまく理解されておらず,公開のベータ版すらまだ利用できない。

 これまでに分かっていることは次の通り。Office Liveは小規模な企業を狙っていて,無償と定期契約ベースのサービスの両方があるということだ。無償版のOffice Live Basicsは,小規模な企業にドメイン名と30Mバイトまでのオンライン・ストレージを持つWebサイトと,5つのWebメール・アカウントを提供する。それは広告料金で運用される予定だ。Office Liveの有料版は,広告が入らない。こうしたサービスに興味があるなら,Microsoftが2006年初めに提供開始するベータ版へサインアップするといい(該当サイト)。

 Windows Liveとは違い,こうしたサービスは特別に革新的なものではないけれども,アドオンと製品バンドルの境界線上をうまく歩いているようだ。Windowsグループがその必要を認識してくれるといいと思う。