最近の米Apple ComputerがiPod nanoをリリースし,そこでハードディスクの代わりにフラッシュ・メモリーを採用した。これは何か今後数年間にストレージの世界で本質的な変化になりそうな気配を示している。

いよいよ本格普及するフラッシュ
 長い目で見ると,数年にわたるストレージの容量と管理能力の強化におけるあらゆる進歩にかかわらず,ストレージ・メディア自体はそれほど大きくは変わっていない。コンピュータの草創期からストレージはテープからフロッピ・ディスク,さらにハードディスクへと進化し,特定の用途には光メディアが使われるようになった。ハードディスクは最有力のストレージ・メディアとして登場したときから,容量と速度とサイズ,そしてもちろんコストの面で大きな技術的な進歩が起きた。

 より低コストでハードディスクのストレージ容量が増大したことは,私たちが今知っているコンピューティング技術を実現できた大きな理由の1つだった。この能力は,アプリケーション・ソフトウエアがより複雑になれるようにし,今も生成されて記録されている何Tバイトものデータのリポジトリになっている。しかし今後数年は,PCのようなパーソナルなコンピューティング・デバイスにおいて,フラッシュがハードディスク技術に対する手ごわいライバルになるだろう。

 フラッシュ・メモリーの利用は,デジタル・カメラとMP3プレーヤの出現で爆発的に増えた。それは携帯電話やそのほかの広範な家電品に取り込まれつつある。フラッシュを大量消費する市場は非常に積極的な開発戦略と急激な価格低下を招いた。メジャーなフラッシュ・ベンダーの1社Samsungは,16Gバイトのフラッシュ・メモリー部品を発表した。フラッシュの容量は毎年倍増すると予測しているアナリストたちによれば,2年以内に64Gバイトのフラッシュが入手できるようになるはずだ。64Gバイトはデータ容量が飽和しつつある今日でさえ,かなりの記憶容量だ。2007年か2008年には128Gバイトの容量が現実味を帯びるに違いない。

 それでもまだ,ハードディスクに比べてGバイト当たりのコストは高いが,フラッシュはいくつか重要な長所を備えている。第1に,それはメカニカルなデバイスではないので,フラッシュは劣化しにくい。多くのPCユーザーにとって,ハードディスクはシステム内で一番壊れやすいものだ。ユーザーたちはもっと信頼性の高いストレージ・メディアを非常に魅力的だと思うだろう。

 第2に,フラッシュは消費電力がより少ない。電力消費を考慮することは,ほとんどあらゆるレベルのコンピューティングで重要な設計上の基準になっている。第3に,フラッシュ・メモリーは占有面積が小さい。iPod nanoは小さなストレージが可能にした,よりすっきりした,いっそう優雅なデザインを愛する消費者の志向を証明した。

ハードディスクも負けない
 フラッシュ・メモリーは急速に進化しているが,ハードディスク技術の進化も止まっているわけではない。ハードディスクの製造者は,ハードディスクの容量を指数関数的に増やせる垂直磁気記録(PMR:Perpendicular Magnetic Recording)という新しい技術について,楽天的である。既にSeagate TechnologyとHitachi Global Storageはノートブック市場を狙った2.5インチのPMRドライブを市場に出したいと表明した。

 さらにCurrent Analysisの調査では,過去2カ月米国のPC市場で100Gバイトと250Gバイトのハードディスクの売り上げが顕著に成長したことを示している。Current Analysisによると, 250Gバイト・ハードディスクは,今や市場の10%以上を占めており,一方,100Gバイトのドライブは,市場の20%近くを占め,一番多い80Gバイトのドライブにほんの数ポイント届かないだけだという。

フラッシュとハードディスクの未来
 まとめてみるとどんなことが分かるか。第1に,フラッシュがパーソナル・コンピューティング用デバイスにどんどん入り込んでいくのは明らかだ。高い信頼性からくる潜在的なメリットと低い電力消費と改良されたデザインは,いくらかまだ容量が小さいことと,恐らく追加コストがかかるという欠点を補ってあまりあるものだろう。

 第2に,フラッシュが比較的小さな容量であるため,組織としてはユーザーに対して自分たちの情報の多くを共有ディスク上に保存するよう勧めることになるだろう。それは全般的に見てよい方向の進歩であり,個人ユーザーが無視しがちな,バックアップやそのほかコンピューティング上の最良の利用法を中央の管理者が制御できるようにする。

 一方で,ユーザーがフラッシュに満足するようになると,人々はデータを持ち運ぶために,ペン型や親指型ドライブといったますます携帯性に優れた小型機器を使うようになり,管理者としては貴重なデータを制御できなくなる。

 ストレージ用のフラッシュ・メモリーの利用が拡大すると,今後2年ないし3年で企業のストレージ・インフラに大きなインパクトを与えるに違いない。管理者たちが現在のフラッシュの進歩を常に意識していないと,知らないうちに,デスクトップ上でもっと制限のきついローカル・ストレージを使うのに慣れたユーザーが,安全でないフラッシュ・ドライブに大量の機密データを入れて持ち歩く可能性がある。