■開発コード名「Longhorn」が「Windows Vista」と正式な名称になってから,初めてのベータ版を紹介するシリーズ連載。最終回は,管理者権限の制限やルック&フィール,性能や互換性などOS基本機能の変更点を紹介する。

※ 画面ショットは Pre-Beta 1 のものです。
Beta 1で若干の変更があるかもしれません。



 最終回は,OS基本機能の変更点をいくつか紹介しよう。Windows Vistaの正式版ではユーザー権限に関するセキュリティ動作が一新される予定である。この変更は「User Account Protection(ユーザー・アカウント保護)」と呼ばれている。全般的なルック&フィールはうまくデザインされていて,どことなくMac OS Xに似ている。しかし,透明な要素と半透明な要素を多数使ったことで,改良すべき余地がある。性能は高いが,初期のベータ版は普通性能がチューンされていないことを考えると少し混乱する。

管理者権限ユーザーの操作を制限
 Microsoftは,Windows Vistaの正式版でユーザー権限に関するセキュリティ動作を一新する予定である。Windows XPでは通常,ユーザー・アカウントは,権限が高い「管理者(Administrator)」か,権限が低い「制限ユーザー(Limited User)」という種類で作る。だが,制限ユーザーはひどくおかしな設定になっていて使いにくく,全アカウントに管理者権限を与えているユーザーも少なくない。管理者アカウントは制限を気にすることなくアプリケーションのインストールや起動や削除ができるので便利である。しかし,こうしたアカウントを日常作業で使うのは危険だ。システム上で動くすべてのものが,一番高いセキュリティ・レベルに上げられた状態で稼働することになるからだ。そしてひとたびハックされれば,悪意のあるコードも管理者権限で動作する。

 UNIXやLinux,Mac OS Xなど他のモダンなOSでは,これは問題ではない。そうしたシステムにユーザーが管理者のアカウントでログオンしたときも,ほとんどの活動は大幅に制限される。そしてシステムの構成を変更する可能性がある作業をする場合は,管理者レベルのパスワードを入力するよう求めてくる。既に管理者としてログオンしている場合でも,そういう仕様になっているのだ。

 MicrosoftはWindows Vistaでようやく,これらのモダンなOSと同じアプローチを採用しつつある。しかし,Windowsでそれを実現するには2つの問題がある。

 第1に,Windowsはこのタイプのセキュリティを受け入れるようには設計されていない。これを実現可能にするため,Windows Vistaでは徹底的なオーバーホールが必要である。

 第2に,世に出ているぼう大な数のWindowsアプリケーションが,ユーザーが管理者権限を持っていることを前提に書かれている。そのため,Windows Vistaでは,そうしたアプリケーションが新システム下で正常に動作することを保証するために,それらを欺く仕掛けが必要になる。

※画像をクリックすると拡大されます


写真-1

写真-2
 Microsoftはこの変更をUser Account Protection(以後UAPと略。以前の呼称はLeast Privileged UserやLUA)と呼んでいる。Beta 1ではそれはデフォルトではオフになっているが,[Start]メニュー内のショートカットで有効にできる(写真-1)。UAPは最終的にはオンになると聞いている。Beta 1での経験では,この変更がとても厄介なもので,MicrosoftがWindows XP SP2に追加したどのセキュリティの変更と比べても腹立たしいと,Windowsユーザーが思うと感じた。恐らく時が経てばもっとシンプルになる。

 今のところUAPは次のように動作する。まずUAPを有効にしてから,一度ログオフして再度ログオンする。以降は何か危険なことをしようとするたびに[Windows Security(Windowsセキュリティ)]ダイアログ(写真-2)が表示される。このダイアログを呼び出す原因になる操作の種類がかなり多いことがいらいらのもとになる。実質的にはコントロール・パネルのどのアプレットを操作しても(例えば,アプリケーションをインストールする操作など)その表示を呼び出すことになる。しばらくするとうんざりする。

 その背後でWindows Vistaは自動的に大きく制限された権限レベルで稼働している。システムがより上の権限レベルを必要とすると,先のダイアログが表示されるので,そこでパスワードを入力する。このパスワードはユーザーが開始した操作のためだけに有効になる。そのほかのすべての操作は(権限を上げられたプロセスの実行中であっても)制限された権限で実行される。

 ほかに変わる点もある。UAPを有効にしていると,Windowsファイアウオールがより頻繁にポップアップするようになるようだ。例えば,私はUAPをオンにする前に数日間WebブラウザのFirefoxを使った。しかし,UAPを有効にした後では,Firefoxをインターネットに再接続させようとするとその前にWindowsファイアウオールが警告を出すようになった。

改良の余地があるルック&フィール


写真-3

写真-4
 Windows Vista Beta 1の全般的なルック&フィールはうまくデザインされていて,どことなくMac OS Xに似ている。しかし,透明な要素と半透明な要素を多数使ったことで,Microsoftは経験豊富なApple Computerよりも数年遅れていることを示した。Appleは内容が見にくいという批判を受けて半透明の要素の量を減らしたのに対して,Windows Vista Beta 1ではルーキーらしいミスがいっぱいだ。

 例えばAeroのウインドウ枠を他のウインドウに重ねると,上にあるウインドウを通してみたときに,くすんだ見え方になる(写真-3)。一定以上の複数のウインドウを重ねるとその効果は乱れてくる(写真-4)。願わくは,ベータ・プログラム期間中のフィードバックで,この手の不具合を減らしてほしいものだ。

期待できる性能
 驚いたことにWindows Vista Beta 1は高い性能を発揮する。現時点で,同一ハードウエア上で動作するWindows XPより高速なことを示す結果が出ても私は驚かない。このことは私をいくぶん混乱させている。というのは,初期のベータ版は普通性能がチューンされていないからだ。その上,VistaはXPに比べて信じられないくらい濃いユーザー・インターフェースを備えているのだ。

今後に期待する互換性
 一般的な初期のベータ版にある大きな問題の1つはハードウエアやソフトウエアの互換性で,これまでのところWindows Vista Beta 1はこの点では問題が多い。メインストリームのソフトの多くはうまく動くようだが,Windowsのバージョン番号をチェックするソフト,例えば,特にMicrosoftの多数のユーティリティは動かない。しかし,ハードウエアはもっと大きな問題だ。4台の異なるテスト・マシンで試したところ,そのうちの2台しかネットワークにつながらなかったし,5種類の異なる無線ネットワーク用カードは全滅だった。これらの問題は引き続きテストするつもりだし,もっとたくさんのマシンと異なるタイプのハードウエアでも試してみるつもりだ。だが要するに,ほとんどのものはうまく動いたのだが,いくつかの必要性の高いハードウエアは全く動作しない。今の段階では予想された範囲のことだと思うが。

まだ判断を下すのは早い
 2年半ぐらい前のことだが,私はLonghornのデモを初めて見るためにMicrosoftの敷地内にある一室にひそかに通された。その当時,Longhornはまだ多くの新機能を詰め込んでいる途中であり,想像できるあらゆる技術のかけらを提供することを約束していた。すべてがAnarkテクノロジを基にしたFlashのようなユーザー・インターフェースで,くるまれていた。すべてがみな本当に立派に見えた。

 私はそういうものが本物のLonghornやVistaビルドで現実化するのをまだ何も見ていない。

 そのあと,Windows Vistaはいくつかの牙(きば)を抜かれてしまった。私が見た初期のAero Glassというユーザー・インターフェースのデモは,このOSを視覚的には少なくともMac OS Xレベルに引き上げるように見えたが,実際にはそれをさらにしのぐことはなかった。私はもうちょっと待ってから見てくれと何度も言われたし,きっともっと良くなるという約束もしてもらった。だがその代わりに,いろんなものがもっとひどくなってしまった。2004年半ばにMicrosoftはLonghornの開発を中断し,Windows Server 2003 Service Pack 1(SP1)のコード・ベースを使うプロジェクトを再スタートさせた。そして同社は,ほかの複数のチームの成果の多くを追加する作業が完全に終わる前に,このシステムのコアをコンポーネント化した。

 超最先端の機能の多くが姿を消しており,しかも永遠に帰ってこないかもしれないということは悪い知らせだ。さらに,Windows Vistaはオリジナルの計画に比べると,Windows XPに似てきている。例えば,XPのスタート・メニューとよく似たメニューはVistaにもある。ウインドウはよりきれいになったが,やはりExplorerのウインドウのままだ。右クリック操作はすべてXPで学んだパワー・ユーザー向けの操作がそのまま使える。ほかにもそういう点がある。

 チア・リーダーみたいに聞こえる危険を冒して,レモンからいくらかレモネードを作ろう。あらゆる中で良い知らせは,Windows Vistaが想像通りに動くだろうということだ。つまりそれはかなりきれいでパワフルだが,やはりWindowsなのだ。あらゆるものが基本的には同じ方法で動作する。

 私はいまだに自分に「これでいいんだ」と無理に納得させようとしている。そして確かに,判断を下すためには,Beta 2に搭載されると予想される内容を見る必要があると感じている。しかし,これまで見た限りではそれは心地よい。Beta 1はビルド5048以降大きく改良されたものになったが,それだけがWindows XPを超える唯一の進歩である。私たちは革命を約束された。そして実際に,革命を見たい。

結論:Vista Beta 1はWhistler Beta 1より進んでいる
 Windows Vista Beta 1は4月,つまりマイクロソフトのハードウエア開発者向け会議「WinHEC 2005」でビルド5048をリリースしたときに,私が期待した内容とほぼ同じレベルに到達した。その点に留意すれば,ビルド5048のようにひどくがっかりするものではない。しかし,それはPDC 2005ビルドやBeta 2,正式版で搭載するエンドユーザー向けのすばらしい機能を欠いているから,平均的なユーザーは興奮しないだろう。Beta 1は,主にIT管理者や開発者がカスタム・アプリケーションの互換性問題をチェックできるようにするために設計されているものである。だからこれはまさに「Fine(良くできている)」という状態なのだ。

 平均以上のユーザーは,仮想フォルダがどう展開するのかを見るのはいくらか面白いだろうし,私はぜひこのシステムをフル活用したいと思っている。というのは,私はとにかくすぐ特別なドキュメント・フォルダ構造を作りたがる性格だからである。Beta 1は将来の可能性と約束を示すもので,その点は問題がない。私が心底がっかりしたのは,ここまで来るのに非常に長い時間がかかったことだ。これらの機能の多くは,ほぼ2年前に見ていた。なので,今はもっとたくさんの機能が欲しいと思っている。

 その前提で考えると,Microsoftが要求に応え続け,可能性は低くても将来のビルドで期待を超えられる限りは,Windows Vistaは正しい道にある。このビルドをWindows XPのBeta 1,当時は開発コード名「Whistler」で呼ばれていた,と比べてみるのは意味があるかもしれない。WhistlerのBeta 1も,当時は後々登場する優れた機能を垣間見せただけだった。しかし,Windows Vista Beta 1はWhistler Beta 1よりずっと先に進んでいる。