■前回は,Active Directoryの論理的な階層構造について解説した。今回は,Active Directoryが物理的なネットワークをどのように扱うかについて解説する。そこで「サイト」と「グローバル・カタログ(GC)」という概念が登場する。これをマスターすれば,ネットワークは最適化される。

(横山哲也=グローバル ナレッジ ネットワーク)


 Windows Server 2003のディレクトリ・サービスであるActive Directoryの前身は,Windows NTのディレクトリ・サービスであるが,さらにその前身は「OS/2 LAN Manager」である。

 LAN Managerは,当初,小規模なLAN環境を想定していた。当時のPCは大規模なネットワークをサポートする能力を持っていなかったせいもあるが,OS/2を共同開発したIBMの意向もあったという。LAN Managerは部門内ネットワークを担当し,全社ネットワークではIBMメインフレームのSNA(Systems Network Architecture)を使用する構想だったわけだ。

 その真偽はともかく,LAN Managerやその後継であるWindows NTディレクトリ・サービスが,大規模ネットワークをサポートしにくかったのは事実である。Active Directoryは,あらゆるネットワーク環境をサポートするため,大幅な機能拡張が行われた。その中心となる概念が「サイト」と「GC(グローバル・カタログ)」である。前回は,ドメイン,ツリー,フォレストといった概念を扱ったが,今回の「サイト」と「GC」によって,物理的なネットワークの構成が最適化される。


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図1●遠隔地の別ドメインに対する照会

Windows NTはトラフィック制御が不便だった
 Windows NTを使って大規模ネットワークを構築しようとすると,次のような3つの問題があった。

●複製トラフィック制御…複製間隔に融通が効かない
 Windows NTでは,PDC(プライマリ・ドメイン・コントローラ)からBDC(バックアップ・ドメイン・コントローラ)へ,ディレクトリ・データベースの内容を5分間隔で複製する。そのときの「5分」という値は,固定されたもので,ネットワークの状況を反映したものではなかった。レジストリを編集すれば,その値は変更できるが,ドメイン・コントローラ単位での設定であり,最適な値に設定するには管理者の負担が大き過ぎた。

●認証トラフィック制御…クライアントによるDC検出が非効率
 Windows NTドメインのクライアントは,ドメイン・コントローラを発見するためにブロードキャストまたはWINS(Windows Internet Name Service)を使う。WINSにはネットワーク情報が格納されていないため,最も近い位置にあるドメイン・コントローラが認証するとは限らない。


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図2●遠隔地の別ドメインに対する照会(効率が改善した場合)

●照会トラフィック制御…ディレクトリの参照が不便
 あるWindows NTドメインのクライアントが,ディレクトリ情報を照会する場合,必ず参照したいドメイン・コントローラにアクセスする必要がある(図1)。これでは遠隔地の異なるドメインの情報を照会したい場合は効率が悪い。効率を上げるために,ドメイン・コントローラを追加することも可能だが,そうすると今度は多くのコスト(ハードウエア,ソフトウエア,および管理コスト)がかさむ(図2)。

 Active Directoryでは,こうした問題を解決するために「サイト」と「グローバル・カタログ(GC)」を導入した。

ネットワークの通信事情に合わせて変えるサイト
 「サイト」は,「高速で安定した通信可能な領域で,1つ以上のIPサブネットの集合体」と定義される。「高速」の定義は厳密ではない。Windows 2000のベータ版(当時Windows NT 5.0と呼ばれていた)のころは,128Kビット/秒といわれていた。しかし,製品が出るころには10Mビット/秒とアナウンスされるようになった。


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図3●ドメイン・ツリーはサイトに分けられる

 実際には,通信速度の絶対値はあまり意味がない。ディレクトリの複製量が少なければ,多少低速な回線でも「高速」とみなせるし,Active Directory以外のネットワーク・トラフィックが非常に多ければ100Mビット/秒でも「高速」とはいえない場合がある。また,通信路の信頼性も重要である。いくら高速でも不安定な回線を単一のサイトとして構成すべきではない。

 サイトの典型的な例は,単一LANやローカル・ルーター(あるいはレイヤー3スイッチ)で結ばれたネットワークである。広域イーサネット・サービスのような高速WANサービスをどう扱うかは議論の余地がある。Active Directoryの設計者が「十分高速で信頼性が高い」と判断すれば単一サイトにしてもよいだろう。サイトは,ドメインや組織単位(OU)とは独立して設定できる。そのため,同一ドメインに複数サイトが含まれてもよいし,単一サイトが複数ドメインにまたがってもよい(図3)。