スマートフォンもタブレットも使ったことがないが電子書籍専用端末は持っている。知り合いから「この仕組みはイノベーションです」と勧められたからだ(関連記事『あなたがプロなら電子出版で自分を高めよう』)。知り合いは個人が電子書籍をすぐ出版できる点を評価していたが、読むことに限れば紙の本がやはり良いと筆者は思う。

 電子書籍に利点は無論あって青空文庫などを利用すれば過去の作家や著述家の作品を簡単に読める。コンピュータを使っているのだから発表当時と同じ正字正仮名で表示して欲しいが、無料か安価で入手できるのは有り難い。

 機会があったら読もうと思っていた福澤諭吉の『学問のすすめ』や『痩我慢の説』を青空文庫版で初めて通読した。福澤諭吉を読むきっかけは二つあり、一つはITリサーチ大手のガートナージャパンで社長を務めている日高信彦氏と雑談していた際、日高氏が『学問のすすめ』の一節を引用したこと、もう一つは愛読している思想家が論文の中で『痩我慢の説』に触れていたことである。

 『学問のすすめ』や『痩我慢の説』はその主張もさることながら文章が名調子で読んでいて気持ちが良い。『痩我慢の説』から任意の一節を紹介する。

 自国の衰頽に際し、敵に対して固より勝算なき場合にても、千辛万苦、力のあらん限りを尽くし、いよいよ勝敗の極に至りて始めて和を講ずるか、もしくは死を決するは立国の公道にして、国民が国に報ずるの義務と称すべきものなり。すなわち俗にいう痩我慢なれども、強弱相対していやしくも弱者の地位を保つものは、単にこの痩我慢に依らざるはなし。啻(ただ)に戦争の勝敗のみに限らず、平生の国交際においても痩我慢の一義は決してこれを忘るべからず。

 心地よく読めるものの自分の仕事に当てはめてみると色々考えてしまう。それを書いてもITpro読者にとっては無意味であろうから自分の事は棚に上げ情報システムの開発プロジェクトを例にして話を進めてみたい。