2020年にオリンピック・パラリンピックの東京誘致運動で有名になった「お・も・て・な・し」。

 「真心込めた」という言葉と一緒に使われがちだが、企業が顧客をもてなすサービス提供の場では、真心オンリーでは限界がある。ITやデータ分析、統計学などを使った工学的なアプローチで、おもてなしの質を高める取り組みが始まっているのではと考え、「おもてなしの科学」というテーマで取材を開始した。

 すると意外なキーワードが出てきた。「グロースハッカー」だ。

写真●イーグルバスが埼玉県川越市で運行する小江戸巡回バス
写真●イーグルバスが埼玉県川越市で運行する小江戸巡回バス
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 グロースハックとは、データ分析やプログラミングなどのスキルを駆使して、直面しているビジネス上の課題を解決する取り組みを指す。仮説検証を繰り返し、顧客の獲得・活性化を達成し、収益に結び付ける。

 米フェイスブックや米ツイッターといったネット企業やネットベンチャーなどでは、こうした取り組みを行うグロースハッカーが活躍し、注目を集めているという(関連記事:サービスを急成長させる「グロースハッカー」とは何者か?)。

 サービス品質の向上を、科学的・工学的に研究している産業技術総合研究所(産総研)サービス工学研究センターの本村陽一副研究センター長は、「グロースハックはネットだけではなくて、リアルな場へも展開していくべき」と指摘する。その1つが「おもてなし」というわけだ。

 「グロースハッカーはネット事業を成長させる人材のこと」といった固定観念を持っていたので、最初はぴんと来なかった。だが取材を進めていくうちに、様々な“おもてなし優良企業”で、グロースハッカーたちが活躍している現実が見えてきた。

バスにセンサー付け、乗降を見える化

 例えば、埼玉県川越市の観光スポットをつなぐ「小江戸巡回バス」を運行するイーグルバス(写真)。運転士による名調子の観光案内が人気を集め、年間15万人の観光客が利用する。運転しながら案内までこなす余裕を生み出しているのが、データ分析だ。