初めて顧客先を訪問したときのことを、筆者は今も覚えている。某ITベンダーに入社し、配属されて約1週間。あるシステムに関する報告をしてきてほしいと、開発部門から依頼があった。その際に同行してくれたのは上司でもOJTの先輩でもなく、当該システムを長く担当してきた派遣技術者の方だった。打ち合わせ前に顧客と打ち解けた様子で雑談する彼の姿を見て、緊張がほぐれたものだ。

 過去に実施したシステム変更などの経緯に詳しく、社内外の信頼も厚い彼には、それから何度も助けてもらった。こうした派遣技術者に心当たりのある読者の方々は、決して少なくないのではないか。自分自身のことだ、という派遣技術者の方もいるだろう。同じ職場や関係部署など、至るところに“頼れる”派遣技術者がいるはずだ。

写真1●厚生労働省は、改正労働者派遣法の2015年4月施行を目指す
写真1●厚生労働省は、改正労働者派遣法の2015年4月施行を目指す
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 情報処理推進機構(IPA)が発行する「IT人材白書 2013」によると、日本のソフトウエア技術者の数は100万人弱。一方で厚生労働省の調査では、2012年6月時点でソフト開発業務に携わる派遣技術者を約10万人としている。およそ1割を派遣技術者が占める。IT業界にとって派遣技術者は、今も昔も欠かせない存在である。

 ところが今、IT業界のこうした現状は変化を迫られている。原因は、労働者派遣法の改正だ(写真1)。日経コンピュータ4月3日号では、「派遣法改正ショック 二つの制度廃止が現場を直撃」と題し、IT業界を支える派遣制度の見直しについて、四つの現場を想定した具体的な影響と対策について紹介した。

 誌面では企業に与える影響に焦点を当てたが、ここでは今回の改正を機に、派遣技術者の在り方、ひいてはIT業界における労働市場について考えたい。

 まずは、派遣制度の見直し内容を簡単に紹介する。