私はこれまで、ITproのコラム「極言暴論!」などで、日本企業のIT投資のおかしさについてIT部門の在り方やITベンダーの提案の問題点から論じてきた。多くのIT関係者に問題意識を持ってもらいたいので、かなり“挑発的に”書いている。そのため最近、ユーザー企業のCIO(最高情報責任者)やシステム部長、ITベンダーの経営幹部に会うと、お叱りをいただくことが増えてきた。

 「でも、結局は(ユーザー企業の)経営者次第なんだよね」。お叱りを糸口にディスカッションすると、必ず最後はこの話になる。「極言暴論!」の記事への読者の意見を読んでも、「経営者のITに対する意識が変わらないと何も変わらない」との指摘は多い。

 経営者次第というのは、もちろん私も同意。業務プロセスを効率化したり、新規事業を創出したりするためにシステムを導入する以上、トップダウンのアプローチを採らない限り成功は望めないからだ。

 振り返ってみれば、「社長はITが分からない」という嘆きは十年一日のごとく、いや30年以上一日のごとくIT関係者の間で繰り返しつぶやかれてきたことだ。だが、この嘆きにはある種の欺瞞がある。一昔前なら「社長が分からない」ことをいいことに、IT部門は潤沢なIT予算を確保し、ITベンダーも潤うことができた。また最近では、何もできないことや、まともな提案ができないことの免罪符としても、この嘆きは使われている。

 結局のところ「社長がITを分かる」ことを単に期待していては、状況は何も変わらない。もしそうなら、IT部門やITベンダーが経営者に分からせる必要がある。

 ただ私は、本当は多くの経営者がITのことを分かっているのではないかと思っている。そして、彼らが本気でITを経営の道具として使い始めたら、IT部門やITベンダーにとって“不都合なこと”も起きるだろう。果たしてIT関係者にその覚悟があるのだろうか。