いきなり、クイズ。1年間に日本で消費されるコーヒーは、杯数にして何杯だろうか。

 答えは、約500億杯。

 そのうちの約4分の1に相当する120億杯を提供する業界ナンバーワン企業が、「ネスカフェ(NESCAFE)」でおなじみのネスレ日本である。

 ネスレ日本は、この杯数シェアをさらに高めようとしている。2018年までには、市場の約3分の1に当たる160億杯を提供して、圧倒的な首位を固める計画だ。最近、街中にはカフェがあふれ、2013年には大手のコンビニエンスストアもこぞって店頭でのコーヒー販売を強化。日本は、空前のカフェブームに沸いている。だが消費ベースでいえば、家庭での飲用が全体の6割。そこでは、ネスカフェは以前から、揺るぎない地位を確保している。

 しかし、そうした状況に満足せず、ネスレ日本はさらなるシェア拡大を狙う。

 市場の3分の1という野心的な目標を掲げるネスレ日本は、次の成長の起爆剤として、ビジネスモデルのイノベーションに取り組んでいる。その中核となる戦略の1つが、記事タイトルにもある「ネスカフェ システム インサイド」である。

 これは、ネスレ日本がもともと得意としてきた家庭内のコーヒーを、「家庭外」にまで広げようとするものだ。街中のカフェ(カフェ ネスカフェ サテライト)から、スーパーマーケットなどの店内カフェ(カフェ・イン・ショップ)、そして一般のオフィスにまで入り込んで、家の外でもネスカフェを飲んでもらう。

 「インサイド」の言葉には、家庭外のオフィスにもネスカフェがいつでもある(当たり前のように置かれている)状態を作り出そうという意味を込めた。先ほど紹介した、500億杯の市場の4割近く(190億杯)を占める家庭外でのコーヒー需要。そのなかで6割以上を占める職場でのコーヒーまで、貪欲に取り込もうとしているのだ。

“当たり前”に入っている状態を作り出す

写真1●日本GEのイノベーション中核拠点「GE センター・フォー・グローバル・イノベーション」の開所式で講演する、ネスレ日本の高岡浩三代表取締役社長兼CEO
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 そう聞いて、IT業界の人はもちろん、多くのパソコンユーザーは「もしかして」と思ったかもしれない。そう、ネスカフェ システム インサイドは、米IntelがWindowsパソコンの拡大とともに世界中で展開してきた「Intel Inside」(日本のCMでは「インテル、入ってる」)の発想に非常に似ているのだ。

 それもそのはず。ネスレ日本の高岡浩三代表取締役社長兼CEOは「ネスカフェ システム インサイドは、“Intel Inside”からひらめいた」と言い切っている(写真1)。Windowsパソコンに、Intelのプロセッサーが当たり前のように搭載されていたように、ネスカフェを職場にも“標準”で入り込ませる。高岡社長の狙いは明快だ。