iPhoneやiPadなど相次ぎイノベーションを起こしたスティーブ・ジョブズが亡くなってから2年が過ぎ、次のイノベーターは誰か、先見性のあるビジョナリーは誰かという話題がネット上やマスコミでたびたび取り上げられる。ここで必ず名前が上がるのが、米アマゾン・ドット・コムの創業者、ジェフ・ベゾスCEO(最高経営責任者)だ。

 ジェフ・ベゾスは1994年、ウォルストリートの金融会社を退職してアマゾンを起業した。当初は奥さんとエンジニアとたった3人でガレージで開業したが、そこから20年、いまや株式時価総額は約18兆円、社員数は世界で約9万人という大企業となった。日本企業の時価総額と比べても、1位のトヨタ自動車の約22兆円と2位のソフトバンクの約11兆円の間に入るほどの規模にまで成長している。

 もっとも、これほどの大きな会社であり、歴史があるのにもかかわらず、アマゾンの企業文化についても、経営者であるジェフ・ベゾスCEOについても、これまであまり明らかになっていなかった。わからなければわからないほど、興味は募るものである。筆者は数年前からベゾス氏をもっと知りたい、ベゾス氏の素顔がわかるような本の編集を担当したいと思い続け、そうして発行したのが『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』という新刊である。本書では、スティーブ・ジョブズとはひと味違う奇才であり、未来を見つめ続ける経営者の姿を知ることができた。

弱い相手を徹底的にやり込めることも

 iPhoneやiPadという画期的な製品で携帯電話の使い方やインターネットの利用方法を変えたスティーブ・ジョブズと同様に、ジェフ・ベゾスもネット・ショッピングで買い物の方法を大きく変えた。アマゾンなら本はもちろん、家電、食料品やベビー用品なども買えるし、早ければ当日に自宅に届く。お店に行かずに、家にいながらにして大抵のものは買えるようになった。

 さらにアマゾンは、電子書籍では端末の「Amazon Kindle」も自ら開発・販売。電子書籍を一気に普及させた。クラウドサービス「Amazon Web Services」(AWS)では低料金でサーバー容量を柔軟に利用できるようにして、資金力のない多くのスタートアップ(新興企業)がAWSのおかげで起業しやすくなった。

 アマゾンを率いるジェフ・ベゾスも、アップルを率いたスティーブ・ジョブズも、まさに世界を変えたわけだ。しかし、そのビジネスの進め方は、2つの点で大きく異なる。