読者の皆さんは「組織風土刷新」というと、どんな印象をお持ちだろうか。「良いに越したことはない」と思う一方で、「風土が良ければ業績も上がるというわけではない」とお考えの方も多いのではないだろうか。また「組織風土を変えたいが、何から手を付ければいいか分からない」という悩みを持つ方々もいるだろう。

 そんな課題を、データ分析で解決しようとしているのが、コールセンター受託運営大手のもしもしホットラインだ。データ分析で管理者やオペレーター同士の“つながり”を見える化し、どこに手を打つべきかが素早く分かる仕組みを構築している。既に成果も出始めており、単位時間当たりの平均受注件数を指す「受注率」が約1.5倍に高まったセンターも現れている。

 ここで、もしもしホットラインが導入した仕組みを詳しく見ていきたい。まず管理者やオペレーターが名刺大のICカードを着用するところから始まる。そのICカードには赤外線センサーと加速度センサーが内蔵されており、「誰と誰が、いつ、どれくらい対面していたか」や、オペレーターの体の揺れや傾きなどを計測できる。そうしたデータをシステムで処理し、管理者やオペレーター同士のつながりを図示するわけだ(画面)。

画面●もしもしホットラインが導入した、コールセンターの管理者やオペレーターの“つながり”を見える化する仕組み
画面●もしもしホットラインが導入した、コールセンターの管理者やオペレーターの“つながり”を見える化する仕組み
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 このセンサーによって、同社では休憩時間のオペレーター同士の会話時間などを捕捉できるようになり、職場の活性化度を定量的なデータに落とし込めるようになった。アウトバウンドのコールセンターを対象に、職場の活性化度と受注率の関係を調べたところ、相関していることが明らかになったという。

 そこで休憩時間の活性度を高めるべく、オペレーター同士のつながりの図を活用した。孤立しているオペレーターが分かれば、センターの責任者が各チームの管理者に対し、「ハブ役」としてほかのオペレーターとのコミュニケーションを仲介するよう指示を出す。以前は「管理者はオペレーターの休憩時間まで干渉しない」という暗黙の方針があったが、休憩中の過ごし方と業績の関係が可視化されたことで意識が変わった。もしもしホットラインの長谷川智之執行役員情報産業本部長は「管理者の行動を科学できる」と話す。

 もしもしホットラインが組織風土刷新にデータ分析を活用し始めた背景には、コールセンターの統廃合がある。コールセンター業界では競争が激しくなり、人件費や運営費を下げるため、センターの統廃合が進んでいる。その結果、1センター当たりの座席数が増え、「管理者の目が行き届きにくくなっている」(長谷川執行役員)という。だからこそ、データ分析によって、管理者やオペレーター同士のつながりを図示し、問題を見える化し、管理者が的確に手を打てるようにした。

 組織風土刷新にデータ分析を活用するというのは、M2M(マシン・ツー・マシン)の一例といえるだろう。米ゼネラル・エレクトリックも機器に埋め込んだセンサーから稼働データをインターネット経由で収集し、機器の運用・保守に生かす「インダストリアル・インターネット」を打ち出している。そのために、米カリフォルニアにソフトウエア開発とデータ分析の拠点を置き、データサイエンティストの育成を急いでいるほどだ(関連記事:「アナリティカルな会社にならなければいけない」、GEのイメルト会長)。

 M2Mを活用し、組織や製品の状態をリアルタイムに把握し、異変を素早く検知することで、風土刷新やビジネスの芽を見つける。そんな流れは今後も加速するだろう。