金融庁が6月に公表した「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」では、IFRSの強制適用の判断は当面見送り、任意適用の拡大にかじを切る方針が示された。そのための一つの施策となるのが「適用要件の緩和」である。

 これまで、IFRSに基づく連結財務諸表の提出が認められるためには、企業は(1)上場していること、(2)IFRSによる連結財務諸表の適正性確保への取り組み・体制整備をしていること、(3)国際的な財務活動・事業活動を行っていること(海外に資本金20億円以上の連結子会社があるなど)---という3つの条件を満たす必要があった。金融庁の新しい方針は、このうち(1)と(3)の条件を廃止し、(2)の条件だけに絞るというものである。

 この任意適用の要件緩和によって、IFRSを適用できる可能性がある企業数は格段に増えそうだ。金融庁によると、2012年度末時点で上場企業3550社のうち、海外に資本金20億円以上の連結子会社を持つ企業は、621社と全体の5分の1に満たない。上記(3)の要件がなくなることで、残りの2929社も任意適用の対象に加わる。また、上記(1)の上場条件が廃止されると、非上場ながら有価証券報告書を提出している企業511社も任意適用の対象となる。つまり、IFRS任意適用の対象社数は、これまでの621社から、有価証券報告書提出企業全体の4000社超へと一挙に拡大することになる。

 もともとIFRSは、企業の財務数値をグローバルに横並びで比較しやすくすることを目指して開発が進められてきている。このため、日本国内だけでなく、海外の資本市場・投資家からも広く事業資金を集めたいと考える企業にとってはIFRSの適用は理にかなっている。また、グローバルに拠点を展開する企業では、各国でばらばらの会計基準を統一すれば、管理会計・経営管理の観点からもガバナンス強化や業務効率化の効果が期待できる。つまり、国際基準であるIFRSは、その名前の通り、財務面あるいは事業面でグローバルに活動する企業と相性がよい。

 では、国内ですでにIFRSを任意適用した企業は、本当にグローバルに活動している企業なのだろうか。個々の企業のIFRS適用の狙いは決算発表などの場で語られるし、定性的には「グローバル企業が多い」という印象だが、IFRS適用企業群としての特徴的な傾向はあるのだろうか。もし、何らかの傾向があるなら、現状で日本基準を採用している企業がIFRS任意適用の是非を判断する際の目安にもなるかもしれない。

 IFRSを任意適用した国内上場企業はすでに16社あり、適用計画を表明した企業も5社出てきた。そこで、IFRS対応で国内4000社をリードするこれら21社に特定の傾向があるかどうか確かめるために作成してみたのが以下のである。

図●IFRS適用企業の内外売上高比率と外国人株主比率の相関
図●IFRS適用企業の内外売上高比率と外国人株主比率の相関
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 この図は、横軸が海外売上高比率、縦軸が外国人持ち株比率で、「■」は適用済み企業、「◆」は適用を表明した企業を表す。海外売上高比率はグローバルな事業活動の度合いを、外国人持ち株比率はグローバルな財務活動の度合いを、それぞれ象徴的に表す指標として選んでみた。

 各社の数値は、IFRS初度適用年度または直近年度の連結財務諸表やアニュアルレポートから引用した。ただし海外売上高比率については、地域別セグメント情報が明らかでない企業の場合は関連財務数値から推定値を算出した。推定の材料となる財務数値が見当たらなかったディー・エヌ・エー、SBIホールディングス、トーセイ、楽天、ソフトバンク、小野薬品工業の6社は図から除外してある。