これまでに3回、このコラムで『社長に「我が社のビッグデータ活用はどうなっている?」と聞かれたら』という記事を書いた。ビッグデータを活用しないと近い将来、ビジネス競争に負けてしまうと危機感を持った流通業A社の社長が、社内を駆けずり回るというものだ(関連記事:社長に「我が社のビッグデータ活用はどうなっている?」と聞かれたら、関連記事:続・社長に「我が社のビッグデータ活用はどうなっている?」と聞かれたら、関連記事:同--「分析の落とし穴」編)。
最終的に社内に活用タスクフォースができて、その議論の中からサービス像も見えてきた。しかし新たな問題が浮かび上がってきた。個人情報やプライバシーの問題である。
ビッグデータを活用することで、従来であれば「30代男性」のように属性をひとまとめにして傾向を分析していたものが、「東京都在住の35歳の山田さん」、「神奈川県在住の37歳の鈴木さん」、というように一人ひとりに対して異なるマーケティング施策を打てる。個々の購買履歴に応じて、Webサイト上でおすすめ商品を提示したり、店舗でクーポンを発行したりといったことがその一例だ。
一方で、個人の趣味嗜好、生活の状態をより細かく知ることができるようになり、それが時にプライバシー問題などとして取り上げられることとなる。行き過ぎた“親切”によって「心地よい」が「気持ち悪い」に変わってしまうのである。A社における、専門家を交えた議論から、その本質について見ていこう。
マーケティング部長「利用者への説明が不十分なまま実施してしまったため、問題となったようですね。ほんの一部のユーザーの反発がネットで大きく広がってしまったのではないですか?」
社長「当社の新システムを利用した、次世代ビッグデータ・マーケティングサービスは大丈夫か?」
Web事業部長「一応、当社の法務に相談しましたが『いままでも問題なかったので、大丈夫ではないか』との回答でした」
社長「ビッグデータを活用すると、匿名化したデータから、今までは特定できなかったような個人のプロファイルが分かってしまうことがある、とテレビや新聞で解説していたけれど、どうなんだ?」
システム部長「そこは正直、これで大丈夫ということは言えないのではないでしょうか。ネットでの炎上も読みづらい面があります」
社長「いずれにしてもリスクはあるわけだろう。外部の法律やビッグデータの専門家を呼んで話を聞いてみよう」
Suicaの利用情報提供に欠けていた大事な視点とは
後日、法律の専門家と、ビッグデータに詳しいコンサルタントがA社に来訪した。
社長「我が社はビッグデータを活用した、顧客一人ひとりにおすすめ商品をできる限り即時に提供するサービスを検討しています。プライバシー関連ではどのあたりに注意するべきですか。社内の担当者では、そのあたりがあやふやで困っています」