「IFRS(国際会計基準)を採用する日本企業が、確実に増えている」。こう聞くと「あれ?」と疑問に思う読者の方もいらっしゃるのではないだろうか。最近IFRSに関する報道と言えば、「採用企業が増えないので、日本版IFRS(J-IFRS)を作る」とか「全ての上場企業がIFRSを採用する強制適用は当面、なくなったようだ」といった、どちらかというと「日本企業にIFRSが浸透していない」という趣旨の話題が先行しているからだ。

 ところが表立ってIFRSの採用を宣言していないものの、社内で既にIFRSを利用している“隠れIFRS採用企業”が増えつつある。隠れIFRS企業とは、社内管理の数値を取得する際の基準としてIFRSを採用していたり、IFRSベースの数値を収集する体制を整えていたりする企業だ。

 記者が「表に出ていないIFRS採用企業が増えている」と実感し始めたのは、日経コンピュータの9月19日号の特集「地球丸ごと見える化」を執筆するための取材過程だった。特集は、グローバルに事業を展開する企業による、「グローバル経営情報システム」構築に関する最新動向をまとめたものだ。
 
 グローバル経営情報システムは、欧米、アジア、南米、中東、アフリカといった海外拠点の経営情報を、あたかも日本の拠点のように把握できるシステムだ。この特集の取材過程で、「IFRSを社内管理向けの数値に利用している」という企業に次々と出会った。

 一般的に言う「IFRS採用企業」は、連結財務諸表や有価証券報告書といった開示用の数値の作成にIFRSを適用した企業を指している。東京証券取引所のWebページなどを参考に企業数を調べると、現時点でIFRS採用企業は21社ある。ソフトバンクや楽天、ディー・エヌ・エーといったネット企業や、住友商事や双日のような商社、武田薬品工業やアステラス製薬といった製薬企業、その他にHOYAや日本板硝子などの製造業もある。最も新しいところでは、9月17日にLIXILグループが2016年3月期からのIFRSの採用を発表した。

 社内管理のみにIFRSを利用している企業は、現時点で連結財務諸表などの開示書類は日本の会計基準や米国会計基準を採用している。そのため社外からは「IFRS採用企業」に見えずに、21社のようにIFRS採用企業としてカウントされていない。

社内のモノサシをIFRSで統一

 特集の取材過程で出会った隠れIFRS採用企業は、セイコーエプソン、第一三共、東海ゴム工業の3社だ。3社のほかに、2013年12月期から連結財務諸表の作成にIFRSの採用を公表している旭硝子も、特集に登場する。同社は、社内管理の基準にもIFRSを採用している。

 社内管理の基準にIFRSを採用するメリットは、会計基準や商習慣が異なる世界各国の拠点から、同一の考え方に基づいた数値を取得しやすくなることだ。色に例えるならば、日本本社が「赤色を作れ」と各国の拠点に指示を出せば、世界各地の拠点が「同じ濃度の赤色」を作れるようになる。要するに、基準となる“モノサシ”を統一するイメージだ。

 社内管理の基準を統一するのは、実は簡単ではない。日本企業の場合、現地法人の自主性を重んじる傾向があったり、商習慣や会計基準の考え方が国ごとに異なったりするからだ。利用している情報システムも拠点によって異なるケースが多く、結局は表計算ソフトなどを利用して各拠点の情報を収集し、それを本社で計算し直して、社内管理に利用するといったケースが一般的だ。

 IFRSを採用する以前、特集に登場する各社は社内管理に利用する数値は世界各地の拠点ごとに基準が異なっていたり、厳密に統一していなかったりといった状況だった。その結果、世界各地の拠点から日本本社に報告される数値はバラバラになる。日本本社は「出荷時点」を売り上げ計上のタイミングとしているにもかかわらず、米国は「受注時点」、欧州「取引先に届いた時点」といった状態だ。