この連載では、「仕事で成長するための思考術」を扱っている。前回は、成長できない10のネガティブ特性のうち、最初の「考えない、悩まない、思考停止」について、「悩まない」ことの功罪を事例とともに説明した。「成長できない10のネガティブ特性」は次の通りである。
「成長できない10のネガティブ特性」
- 考えない、悩まない、思考停止
- 動かない、実行しない、立ち尽くす
- 柔軟性がない、頑固である
- 発信できない、働きかけない、共有できない
- 人の話を聞かない、傾聴できない
- 自分本位、思い遣りがない、人間音痴
- 想像力がない、発想が貧困である
- 目標がない、目的がない、夢がない
- 計画性がない、段取りが悪い
- 状況を把握できない、どの位置にいるのか分からない
今回も「考えない、悩まない、思考停止」について説明する。
できない自分を受け入れることが「成長の近道」
前回、筆者は仕事で成長するためには、考えること、悩むことが必要だと説明した。その論旨、根拠を再掲する。
仕事における成長とは、「それまでできなかった仕事上の必要なこと」ができるようになることだ。そして、「できないこと」が「できるようになる」には、以下のステップが必要である。
- できないことを自分で把握するか、他人に指摘してもらい、
- できるようになるためのマインドセット(考え方、思想)やスキルセット(知識、技能)を自分で洗い出すか、他人に洗い出してもらい、
- それらを自分で習得するか、他人から教えてもらい、
- 実務で使って自分のものにする。
これらのステップの過程では、情報収集や意思決定、学習、トライアンドエラー(試行錯誤)を繰り返す必要がある。
成長のために必要な最初のステップは「1.できないことを自分で把握するか、他人に指摘してもらう」ことであるが、ここで大事なのは「できないことを自分で把握することは結構難しい」ということだ。なぜなら、「できている」「できていない」は絶対的な数値で評価されることはなく、あくまで主観的に自己評価していることが多いからだ。
例えば「相手を説得するための文章を書く能力」を考えてみよう。上司である課長の能力が100点満点で80点、部下の主任の能力が50点、「できる」「できない」の境目が60点のように客観的な数値として決まっていれば、絶対的なものとして認識できるだろう。
しかし一般的に、仕事に必要な能力が点数化されたり、点数基準が決まっていることはない。これが自己評価が主観的になってしまう原因だ。何となく「文章が書ける」と思っていると、「できていない」という自覚が生まれない。このケースでは成長に向けたステップは機能しないのだ。
このように、自分で「できていない」と自覚するのは難しく「他人に指摘してもらう」方が簡単だ。しかし、これにも課題がある。他人から指摘され「できない自分を受け入れる」ことは精神的な苦痛を伴うからだ。
特に、それまで仕事ができると周囲から評価されてきた人間ほど、成功体験とプライドが邪魔をするので「できない自分を受け入れる」ことができない。この結果、最初のステップである「1.できないことを自分で把握するか、他人に指摘してもらう」から前に進めず、結果的に成長しなかったケースを筆者は数多く見てきている。成長できるチャンスがあったのに…、これは非常に残念なことだと思う。