「こんな人が身近にいてくれたらいいのに!」

 納本されたばかりの日経情報ストラテジー10月号で、「第1回 データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー」の記事を改めて読んで、ちょっとずうずうしいことをつぶやいてしまった。記念すべき第1回の受賞者は、大阪ガスの河本薫 情報通信部ビジネスアナリシスセンター所長。記事では河本氏の人柄や、データサイエンティストとしてのポリシーなどが紹介されている。

 「フォワード型分析者を目指せ!」が持論の河本氏は、まず現場に出向いて話を聞き、何に困っているのかを知ることから始めるという。

 社内外のビッグデータを必要に応じてそろえ、使いこなせる力を備え、様々な現場が抱える課題を解決する糸口を探り、示してくれる---。なんて心強いのだろう! 社内コンサルタント的な存在として、1部署に1人とは言わないまでも、1フロアに1人くらいの割合でいてくれたら、と思ってしまう。

 そんなデータサイエンティストの不足が指摘されている。確かに、データサイエンティストはもっとたくさんいた方がよいと筆者も思っている。しかし、国内で将来、データサイエンティストが25万人不足するという試算を見たときにはぴんとこなかった。25万人のデータサイエンティストは、いったい世の中のどこで仕事をするのだろうか。

 現在のところ、企業内にいるデータサイエンティストたちの多くは、データ分析を専門とする部署に所属している。例えば大阪ガスの河本氏が率いるビジネスアナリシスセンターや、データ経営で知られる花王のデジタルビジネスマネジメント(DBM)室などがそれに当たる(詳細は10月号の特集を参照)。

 しかしこのような部門の人数は、大手のユーザー企業でも、せいぜい数十人程度だ。もっと大勢のデータサイエンティストを抱えるのは、やはり、ITベンダーやコンサルティング会社だろう。顧客のビッグデータ活用を支援するために、数百人単位のデータサイエンティストを育成することを軒並み表明している。さらに、ITベンダーほど多くはないが、研究職として大学や研究機関などに所属する人たちもいるだろう。

 あるいは筆者が冒頭に書いたように、現場部門に籍を置き、日々問題解決に臨むデータサイエンティストたちが現れるという贅沢なシナリオもあるだろうか。それなら、データ分析専門部署に加えて、各部門に1人ずつ配置すれば、はるかに大勢のデータサイエンティストが必要になるだろう。これらを積み上げれば、数万人程度にはなりそうだ。

 しかし、データ分析の重要性がかつてなく高まっているからと言って、各現場でビッグデータを分析できるようになるとは思いにくい。なぜなら、ビッグデータの活用ともなれば、今まで以上に、個人情報漏洩やプライバシー侵害のリスクがついて回るからだ。やはり、一定の部門に権限を集中させておく方が得策と思える。

 そんなわけで、やはりデータサイエンティストの居場所は当面、ユーザー企業のデータ分析専門部署のほか、ITベンダーやコンサルタント、研究・教育機関などに限られるような気がしている。

 ちなみに、SEやプログラマーの国内人口は40万~50万人と言われる。将来、25万人のデータサイエンティストが世に出たら、SEやプログラマーに匹敵する一大勢力になり、あなたの隣もデータサイエンティスト、という状況が珍しくなくなるかもしれない……が、やはりなかなかイメージしにくいものがある。

 解決策としては、企業のCIO(最高情報責任者)が橋渡しになるのではないか。システム部門の司令塔はITから見た現場や経営における優位性や苦労を知っている。

 日経情報ストラテジーが第11代の「CIOオブ・ザ・イヤー」に選出した日本交通の野口勝己執行役員も、システム部門のベテランかつ「タクシー配車のアプリ」という先端かつ実用的なサービスを世に送り出したアイデアマンでもある。革新的なCIOと新しい職業であるデータサイエンティストとが協力すれば、企業経営を大きく変えるだろう。CIOとデータサイエンティストの融和が今後の注目点と言える。

■変更履歴
本文中「データベースマネジメント(DBM)室」とありましたが、「デジタルビジネスマネジメント(DBM)室」の誤りです。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2013/08/30 11:20]