7月下旬、「電子自治体の取組みを加速するための検討会」の第1回会合が、総務省で開催された。5月のマイナンバー法(番号法)の成立と、6月の新IT戦略「世界最先端IT国家創造宣言」の閣議決定を受け、電子自治体の推進を加速させる新しい指針を策定するために、有識者から意見を集めるのが目的である。同省の関博之 大臣官房地域力創造審議官の挨拶に続いて、東京工業大学の大山永昭 像情報工学研究所教授が互選により座長に就いた。

 総務省は新しい指針の検討材料とするために、すでに6月から全国の都道府県・市区町村を対象にシステムの実態や契約状況、推進管理体制に関するアンケート調査を実施している。9月には調査結果を取りまとめ、10月の第2回検討会で結果を報告するとともに、課題の抽出や指針文案の検討を行う。12月の第3回検討会で指針案を決定し、その後パブリックコメントを経て、2014年3月に新しい「電子自治体推進指針」として公表するスケジュールである。

マイナンバー契機に6年ぶりに指針を見直し

 電子自治体推進指針が最初に策定されたのは、ちょうど10年前の2003年8月。電子政府の推進戦略である「e-Japan戦略II」が決定された直後のことだった。その後、利用者である住民や企業が利便性の向上を実感できていない、業務やシステムの効率化が不十分といった反省を受けて、2007年3月に「新電子自治体推進指針」が策定された。

 以降、総務省は仮想化技術やクラウドサービスなどの技術進歩・普及に合わせて、共同アウトソーシングの推進、ASP・SaaS導入ガイドラインの策定、自治体クラウドの開発実証事業などの施策を進めてきたが、指針自体の見直しには手を付けてこなかった。

 今回、6年ぶりの指針見直しの直接のきっかけになったのは、2016年1月に運用が始まるマイナンバー制度である。同制度の導入にあたっては、住民情報・税務・国民健康保険・年金・福祉といった自治体の基幹業務全般について業務プロセスの見直しとシステムの改修が避けられない。

 影響は職員の人事給与などの内部管理系にも及ぶ。各自治体で番号制度対応のためのシステム改修が本格化する前に、新しい指針を示しておく必要があったわけだ。さらに、情報の窃取を狙ったサイバー攻撃の激化や、東日本大震災で露呈した行政サービスのBCP(業務継続計画)のぜい弱性など、近年の環境変化へ対応するためにも、指針の見直しは急務だったといえる。

 6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針2013)」では、「第2章 6.強い経済、豊かな生活を支える公的部門の改革」の一環として「世界最高水準の電子政府の実現」がうたわれ、「自治体クラウドの推進」が盛り込まれた。また、「第3章 3-(3)地方行財政制度の再構築に向けて」では、重点的取り組みの一つに「地方における公共サービスの可視化の推進」が挙げられ、自治体クラウドと自治体でのオープンガバメント化の推進が具体策として記された。

 同時に閣議決定された世界最先端IT国家創造宣言でも、番号制度の導入までの今後4年間を自治体クラウドの集中取り組み期間に位置づけ、自治体の取り組みを加速させることをうたっている。

 こうした状況を映し、第1回検討会で事務局が示した指針の骨子案には、具体的な推進事項として次の5項目が列挙された。

    (1)番号制度を契機とした自治体クラウドの導入など情報システム改革---業務の標準化、ベンダーロックインの排除など

    (2)番号制度・IT活用による住民サービスの向上---オンライン化促進、ワンストップ化、プッシュ型サービスなど

    (3)オープンガバメント化---情報発信・アクセスの多角化、新産業の創出、個人情報への配慮

    (4)情報セキュリティ対策の更なる強化---人材育成、ポリシーガイドラインの改定

    (5)ガバナンス体制の構築・強化---部局横断の計画、KPIに基づくPDCA、人材育成、ICT-BCP策定など

 いずれも電子自治体の構成要素として重要度・優先度が高い項目であり、選択は妥当といえるだろう。ただ、これまでも政策として推進してきながら、十分な成果が上がっているとはいえない項目も数多く含まれる。新しい「指針」を作ったからといって、すぐに状況を変えられるわけではなさそうだ。