「予算を守って会社をつぶすな」

 最近読んだ本に出てきた言葉である。その本の著者がある件で悩んでいた時、当時の上司からこう言われたという。著者は「衝撃的な言葉だった」と書いている。

 予算は守らないといけない。だが、もっと大事があればそちらを優先する決断をせよ。これが上司の教えであった。

 確かに印象に残る言葉である。人間はどうしても眼前の案件に追われ、とにかくそれをこなすのに精一杯で本当に大事な何かを忘れてしまいがちだ。

 良い言葉を教えてもらった。「○○を守って□□をつぶすな」と覚えておけば色々と応用できる。「○○必達」などと言われている言葉を前に入れ、それより大事なことが無いか考え、□□のところに入れてみると気付きがある。

一番の大事を考えてみる

 早速、筆者の仕事に応用してみよう。

 「締切を守って雑誌をつぶすな」

 原稿の締切は守らなければならない。しかし「締切が来たからやむを得ない」と取材を切り上げ、不十分な情報を基に慌てて記事を書いても良いものにはならない。駄目な記事を載せ続けていたら雑誌はつぶれてしまう。

 良い記事を書くためにどうしても必要なら取材を続行すべきで、その結果、締切に遅れたとしても致し方ない。こう書いてはまずいがとにかく致し方ない。無論「締切を守るな」と言っているわけではない。

 「読者の言う通りにして雑誌をつぶすな」
 「広告主に気兼ねして雑誌をつぶすな」

 読者と広告主はどちらも雑誌にとって顧客である。顧客に配慮して顧客満足度を高めるべきだが、おもねる必要はない。

QCDの遵守より大事なもの

 自分の仕事に関してなら、この調子でいくらでも書けそうだが、ITpro読者にとっては退屈だろうからITの仕事に適用してみよう。

 「QCDを守ってプロジェクトの目的をつぶすな」

 プロジェクトの実施にあたっては、QCD(品質・コスト・納期)について事前に決めた条件を満たすように舵取りしていく。ただし、QCDを守れたからといって、そのプロジェクトは成功だったとは言い切れない。

 プロジェクトは何らかの目的のために実施される。QCDについて計画通りだったとしても、成果物が肝心の目的とずれていたらプロジェクトをした意味が無い。ところがそうした事態がしばしば発生する。

 「QCDを守るために、開発案件の一部を二次開発に回しましょう」といった場合だ。その一部がさほど重要でないなら構わないが、プロジェクトの目的に沿った根幹部分を後回しにしてしまったら、まさしく骨抜きプロジェクトになってしまう。

 「ルールを守って現場をつぶすな」

 解説は不要だろう。開発ルールを取り決め、それを現場に守らせようとして強権を発動すると現場は疲弊しかねない。「ルール」の代わりに、手法、プロセス、方法論、という言葉を入れても成立する。

 「技術にこだわって利用者に負担をかけるな」

 これまた解説不要であろう。

 ITプロフェッショナルの皆様は自分が重要と考えて日頃から守ろうとしていることを一つ挙げ、それよりも重要なことは何かと考えてみてはいかがだろう。