スマートフォンやタブレット端末が標準で搭載する無線LAN。使用機会が増えた人もいるだろう。ところで、2.4GHz帯の無線LANについて「パソコンやスマホの無線LAN設定画面で多数のネットワーク名(SSID)が見えるので混雑している」という話を聞いたことがないだろうか。混雑が進むと通信速度が遅くなるといった影響が出るので、いち無線LANユーザーとしても気になるところだ。

 筆者は最近、こうした混雑がかなりの状態まで進むとどうなるかを表す測定データを見せてもらう機会があったので、紹介したい。

 無線LANは、近くに同じチャネルを使う機器が複数台あったとして、これらの機器は1度に1台しか通信できない。ほかの機器が通信中かどうかをチェックして、通信中なら待つというCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance)という仕組みが規定されているからだ。この仕組みがあることで問題になるのは、低速に通信する端末である。同じデータ量でも、高速に通信する端末に比べて通信に長い時間を要するため、周囲の端末の速度低下を招く恐れがある。

 ではIEEE 802.11nやIEEE 802.1ac Draftといった高速な規格をサポートしているものしかなければ、多数の無線LAN機器があっても問題ないかというと、そうではない。こうした機器の通信の中にも、低速なものが混ざるからだ。典型例は、無線LAN AP(アクセスポイント)が自分の存在を知らせるために定期的に出す「ビーコン」という通信や、端末が接続可能なSSIDを探索しAPがSSIDの情報を返す「プローブ」と呼ぶ通信である。どのくらい低速かというと、ビーコンは最も低速なケースで1Mbpsとなる。

 ビーコンはSSIDごとにAPが送信し、デフォルトの送信間隔は100ミリ秒に1回である。一方プローブの多寡には、APの数だけではなく端末数も関係する。端末は「プローブリクエスト」というメッセージを周辺の機器に向けて一斉に送信。それを受けたAPは、SSIDごとに「プローブレスポンス」というメッセージを、プローブリクエストを送ってきた端末に返す。つまりプローブの数は、端末数とSSID数の掛け算になる。

 プローブレスポンスは、端末が接続していないSSIDの分も送り返される。パソコンやスマホで無線LAN設定画面を開くと、自分が接続している無線LAN APのSSIDのほかに、見知らぬSSIDがいくつか表示されることがよくある。これが周辺のAPから送り返されてきたプローブレスポンスの結果である。

 ビーコンやプローブは、1つひとつの情報量はそれほど多くないものの、数が増えるにしたがって占有時間も長くなる。冒頭で触れた測定データとは、同じチャネルを使うSSIDが極めて多い環境において、ビーコンやプローブといった制御用の通信だけでどれだけの時間を占有するかという実験を実施したときのものである。測定機器ベンダーの東陽テクニカに、測定データを見せてもらいながら、そのような結果になった理由を解説してもらった。