最近、「カスタマー・エクスペリエンス」という言葉が注目を浴びつつある。日本IBMや日本オラクルなど、この言葉を掲げたソリューションを提供しているIT企業も増えてきた。

 カスタマー・エクスペリエンスは「顧客経験価値」と訳すが、それにしてもモヤっとしていて分かりにくいかもしれない。平たくいうと、「商品・サービスの選定、購入、利用、サポートまでの経験を通じて顧客が感じる価値。小売業であれば、店に行き、出るまでの全体験に満足を与える経営手法」と定義できる。

 今、成長を遂げている企業を分析すると、カスタマー・エクスペリエンスの向上に取り組むところが多い。代表例は米スターバックスや米アップルである。スターバックスはコーヒーをくつろいで飲める空間を提供しているし、アップルはハードウエアを軸にしたネットサービスやアップルストアのような場を提供し、顧客をわくわくさせている。

 「スタバやアップルのようにはなれない。カスタマー・エクスペリエンスはブランド力のある企業の取り組み」。そう考える読者も多いかもしれない。でもそこで思考を止めては、現状を打破することは難しい。

 品質の高い商品やきめ細かいサービスを提供している。顧客満足度を向上させるための手もたくさん打っている。それでもなかなか業績が好転しない――。こんな日本企業は少なくないだろう。

 こうした企業に不足しているのは、「カスタマー・エクスペリエンスを高める発想」ではないだろうか。こんな仮説を立て、多くの企業や有識者に取材した。その詳細は、日経情報ストラテジーの9月号特集「カスタマーエクスペリエンス」でまとめた。

待ち時間は初音ミクの“コンサート”を聴く

 詳細はぜひ特集記事を一読していただきたいが、顧客を感動させるための施策は大きく2パターンある。

 1つは「ここまでやるか」というもの。代表は、ネスレグループで、エスプレッソマシンやコーヒー粉末を収めた「カプセル」の開発・販売を手がけるネスレネスプレッソの取り組みだ。1杯のコーヒーを少しでも贅沢な気分で自宅で飲める。こうした気分を顧客に味わってもらうため、豪華な店舗を構え、会員制度を導入。CRM(顧客関係管理)システムを駆使して、1個約70円のコーヒーカプセルを売るため、24時間365日サポート体制を整えている。