「おそらく多くの人たちは『ネット依存』なんて大した問題ではないと思っているのではないでしょうか。それはとんでもない話です。子供たちのネット依存は、そんな生易しい問題ではありません。私は長年、アルコールや薬物に依存する大人たちの治療に携わってきましたが、ここに来る子供たちのネットへの依存度は、アルコールや薬物への依存と変わらない重大なものばかりです」。

 ネット依存の子供たちと向き合う独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターの樋口進院長は、真顔で私にそう語った(写真)。

写真●神奈川県横須賀市にある久里浜医療センターの樋口進院長
写真●神奈川県横須賀市にある久里浜医療センターの樋口進院長
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 神奈川県横須賀市の海沿いにある久里浜医療センターは、日本で最初にネット依存の治療を始めた医療機関だ。それでも開始は2011年7月。実際に患者が来るようになったのは同11月から。まだ1年8カ月ほどである。久里浜医療センター以外で対応できているのは、全国規模で見ても数カ所もないという。そのため久里浜医療センターには全国から悩み相談が集中する。

 2013年7月までの間に、久里浜医療センターには約350件の電話相談が寄せられ、そのうちの3分の1に当たる約120人が実際にセンターにやって来た。半分以上は、親に「無理やり」連れてこられた未成年者だ。

 ネット依存といっても、これまでに来院した子供たちの80%は、パソコンを使って多人数で遊ぶオンラインゲームへの依存が強い人たちばかり。先に社会問題になった携帯電話やスマートフォンで楽しむソーシャルゲームの方ではなく、「家に引きこもって何時間もパソコンやゲーム機にのめりこんでしまう子供たち」だという。大学生を含む、10代の男子学生がほとんどである。

 逆に女性は20代以上。男性と違ってSNSにはまる傾向が強く、ゲーム依存はまれ。「好きな芸能人の追っかけがいつしか度を越し、四六時中SNSばかりしている女性がいる」(樋口院長)。

 男性と女性で傾向が異なるのは、そもそも依存対象が男性と女性では違うからだ。ちなみに米国では出会い系などにはまる人が多いそうだが、久里浜医療センターにはそうした相談は少ない。

 最近はLINEなどにはまる子供の話もなくはないが、「現在までにセンターに寄せられた相談はオンラインゲームが圧倒的に多い。ただし、ネットの分野はトレンドの移り変わりが激しいので、どんどん依存対象が変化していくことも考えられます。頻繁に調査をしない限り、実態をつかむのは本当に難しい」。