先の国会の終盤、発送電分離をにらんだ電気事業法改正案や、不正受給防止を目指した生活保護法改正案などが、参議院での首相問責決議のあおりを受けて軒並み廃案となった。民自公3党が賛同していた点は、2013年5月24日に成立した「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」、いわゆるマイナンバー法・番号法と同じである。成立と廃案の明暗を分けた要因の一つは、法案審議の順番だった。終盤国会の混乱ぶりを見て、マイナンバー法に関わる官民の関係者の中には「もし順番が逆だったら」と肝を冷やした人も多かったのではないだろうか。

 民主党政権のときから2年越しでようやく成立したマイナンバー法は、すでに5月末に官報公布され、2015年10月ころに施行される見通しである。同制度では、住民一人ひとりに12桁の個人番号を割り当て、まずは社会保障・税・防災の分野で2016年1月から運用が始まる。日本国内に居住する1億2700万人超に直接関わる制度であるうえ、国家による監視やプライバシー漏えいへの懸念・批判が根強いことから、マスコミの報道も盛んだ。検索件数を指標化して時系列で示す「Googleトレンド」で見ると、「マイナンバー」の検索件数は自公政権による法案提出直前の2月から上昇を始め、法案が成立した5月には年初の約20倍ものレベルへと急伸した。社会的な関心の高まりを如実に表している。

 実はこのマイナンバー法では、住民に割り当てる個人番号とは別に、もう一つの番号を規定している。企業や官公庁などに割り当てる「法人番号」である。法人番号に触れる報道はほとんどないため、社会的な認知度は限りなく低い。だが、企業や自治体には大きな期待を寄せる声が少なくない。今は個人番号の陰に隠れて目立たない法人番号だが、どんなパワーを秘めているのだろうか。

個人情報保護とは無関係で“手軽”

 法人番号は、国税庁が企業や官公庁などに割り当てる。企業に対しては、法務省が管轄する商業・法人登記に記載されている12桁の「会社法人等番号」を基にして、13桁の新しい番号として生成して通知する。住民基本台帳に記載された11桁の住民票コードを基にして、地方公共団体情報システム機構が12桁の個人番号を生成し、地方自治体が住民に通知する流れに相当する。現状では行政分野ごとに識別番号が異なり、行政機関間での情報連携が難しいという制度導入の背景事情も、法人番号と個人番号では似ている。

 だが法人番号と個人番号には、制度上、決定的な違いがある。法人番号には、個人情報保護に関わる規定が及ばないことだ。マイナンバー法は全9章・77条文からなり、このうち3章・36条文は個人情報保護に関する規定が占める。いわば個人情報保護制度の特別版のような位置づけになっている。この個人情報保護とは無縁の法人番号は、第7章の4条文だけでシンプルに規定されている。

 このシンプルさが使い勝手のよさにつながる。一部の例外を除いて、(1)企業などの商号または名称、(2)本店または主な事務所の所在地、(3)法人番号---からなる「基本3情報」は、国税庁が公表する。公表された法人番号は、民間でも自由に使って構わない。利用分野を法律によってホワイトリスト形式で規定し、当面は民間企業の利用を認めず、不正利用には厳罰を科す個人番号と比べれば、“異次元の緩和”ぶりである。

 個人情報保護とは無縁の法人番号は、符号変換をはじめとする個人番号に関する複雑な情報連携の仕組みからも独立している。個人番号にひも付いた特定個人情報を省庁・自治体間でやり取りするための「情報提供ネットワークシステム」は、2016年1月の制度運用開始から1年後の2017年1月以降に稼働するが、法人番号に基づく情報連携は制度運用開始と同時に始められる。