総務省は、早ければ7月末にも2.5GHz帯周波数(2625M~2650MHz)を広帯域移動無線アクセスシステム(BWA)向けに新たに割り当てる。同周波数は、2009年3月末で終了した移動体向け衛星放送サービス「モバHO!」の跡地。開設計画(免許)の申請は6月24日で締め切っており、KDDI系のUQコミュニケーションズ(UQコム)とソフトバンク系のWireless City Planning(WCP)の2社による一騎打ちとなる。

 通信事業者における新たな周波数獲得の重要性については、改めて説明するまでもないだろう(関連記事)。従来は「W-CDMA vs CDMA2000」といったシステム間競争の側面もあったが、今後はLTE(TD-LTEを含む)に一本化され、保有する周波数帯と帯域幅が、今まで以上に競争上の有利・不利に直結するようになる。

 周波数帯は、端末の調達のしやすさやつながりやすさに大きな影響を及ぼすほか、帯域幅が多いほど高速サービスを展開しやすい。この傾向は、LTEの進化系であるLTE-Advancedでさらに強まるだろう。

 それだけに今回の追加割り当ても重要な意味を持っており、水面下では激しい駆け引きが繰り広げられている。

審査基準を見るとUQコムが優位だが…

図1●2.5GHz帯の追加割り当て指針(総務省資料から抜粋)
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 今回の開設指針で興味深いのが、2625M~2650MHzの周波数のうち、「最大20MHz幅」を割り当てるとした点だ(図1)。既存の事業者は10MHz幅も希望できるようになっており、UQコムとWCPがともに10MHz幅で申請すれば、両社に割り当てられる可能性もあった。だが総務省の事前調査(関連記事)の通り、UQコムは20MHz幅、WCPは10MHz幅で申請した。

 競願時の審査基準は、2017年度末時点の人口カバー率(5%単位で比較)がより大きいことが第1基準になる(図2)。ただ、両社とも95%以上で申請するはずなので、ここで差が付くとは考えられない。あとは第2基準で掲げるA~Gの項目で比較することになるが、おそらく両社とも最善の計画で提出したはずで、そもそも優劣が付きにくい。

 例えば基準AやFの人口カバー率は、やはり2017年度末が対象なので同じ評価に終わる可能性が高い。基準Cの安全・信頼性対策も大差はないだろう。

図2●競願時の審査基準(総務省資料から抜粋)
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 優劣が明確なのは、基準Eの「指定済み周波数幅に対する契約数の割合」。これは、WCPが20MHz幅(割り当てられた30MHz幅のうち10MHz幅は2014年12月末までの運用制限があるので対象外)で142万1200件(5月末時点)に対し、UQコムが30MHz幅で418万1600件(同)と優位である。

 残りの基準B、D、Gは判断が難しい。例えば基準Bはキャリアアグリゲーション(CA)の導入時期を考慮すれば、仕様策定が進んでいるAXGPを採用するWCPが優位となるが、導入時期が早いからといって、計画全体が優れているとは限らない。基準DもMVNO(仮想移動体通信事業者)の数を見ればUQコムが大きくリードするが、現状は両社ともユーザーの過半をMNO(携帯電話事業者)によるMVNOに頼っていることから、今回はMNO以外への貸し出しが評価の主な対象となっている。

 基準Gの「電波の能率的な利用を確保するための計画」については、高度BWAへの移行に手間がかかるとみられるUQコムの計画が気になるところだ。仮にUQコムが「新規獲得した20MHz幅にTD-LTE互換のWiMAX Release 2.1を導入し、既存ユーザーをある程度巻き取ってからCAで高速化を図る」といった計画の場合、電波の「贅沢使い」の印象も受ける。両社とも計画の詳細を公表していないが、この部分が最大の焦点となりそうだ。

 というのも、既存事業者間の比較審査で第2基準が同順位の場合、割り当てを希望する周波数幅が小さい方を上位者とする決まりがある。基準Eを考えればUQコムの優位は明白だが、仮にWCPが基準GでUQコムを上回って同順位の評価に持ち込むことができれば、WCPが周波数を獲得することになる。

 ただその場合も10MHz幅の空きが残り、再募集となれば認定の時期は遅れるものの、やはりUQコムが獲得できる可能性は十分にある。このように考えれば、UQコムが当初から20MHz幅を狙って申請したのも戦略として当然と言える。