この3月、情報処理推進機構(IPA)から1冊の本が発行された。タイトルは「共通フレーム2013」。システムの企画・開発・運用に至る作業内容や成果物、役割分担などを定義したものである。システム開発に携わる方なら、標準的な開発プロセスとしてなじみのあるフレームワークかもしれない。

 おおむね5年おきに改訂される共通フレームには、その時代の「情報システムの潮流」が反映されている。前版の共通フレーム2007では、「超上流」がトピックだった。具体的には。システム化構想やシステム化計画の立案といった企画プロセスが拡充された。実際、この前後から、超上流を強化する開発現場が確実に増えた。当時在籍した日経SYSTEMSでも、見積もりや要件定義など超上流の記事をよく取り上げたことを覚えている。

 では、今年発行された共通フレーム2013のトピックは何か。それが実は「運用」にほかならない。筆者らは今年4月、「日経BPシステム運用ナレッジ」と呼ぶ運用管理者向けの会員制サービスを立ち上げた。その方向と、今回の共通フレーム2013の方向が、完全に一致したのである。

運用が起点、開発してまた運用に

 「共通フレーム(SLCPとも呼ぶ)」になじみのない方もいるだろう。そもそも共通フレームは、国際規格「ISO/IEC 12207:2008(JIS X0160:2012)」をベースに作成し、日本独自の企画、システム開発、サービスマネジメント分野の作業を定義している。国内の主要ベンダーやユーザー企業が策定に当たり、その歴史も25年近くになる。実質的に、国内における開発・運用プロセスのデファクトスタンダードといっていい。

 その共通フレームの新版のメッセージは、「開発のち運用」から「運用時々開発」へ、である。従来のシステム開発といえば、企画・要件定義から始まり、設計、実装、テスト、移行という開発プロセスへと進む。そしてこの開発プロセスから「運用」へと引き継ぐプロセスだった。

 「今でもそうではないか」と指摘する方がいるかもしれないが、この流れがまさに「開発のち運用」という過去の考え方だ。

 最新の共通フレーム2013では、「運用時々開発」という考え方に変わっている。つまり、前提として「稼働中のシステム」が存在し、その運用プロセスを起点に開発が始まる。そして開発後に再び運用プロセスに戻る、という流れだ。大規模開発が減少した2000年代以降、こうした流れが一般化してきている。だが、長年新規開発を手掛けてきた、どちらかといえばベテランSEの方には、この「運用が起点」という発想に戸惑うかもしれない。実際、筆者もそうだった。

 少々脱線するが、開発の位置付けをめぐる世代間のギャップは実際に存在する。ある著名なシステムコンサルタントは、「今の若いSEは、開発は運用段階のちょっとしたハプニングと捉えている」と指摘。その上で「新規開発を中心としてきたベテランSEは、運用の真っ只中で開発をどう進めるかを真剣に考えるときが来た」と強調する。