第2次安倍内閣におけるIT戦略である「世界最先端IT国家創造宣言」が、6月14日に閣議決定された。既に内容は公開され、工程表の検討も進んでおり、ご覧になった方も多いだろう。

 私自身も、いくつか内容の検討をお手伝いしたこともあり、今回のIT戦略は従来以上に関心を持っていた。そうした立場で改めて読んでみると、まず今回のIT戦略は、対象範囲が相当広いことに気づく。

 具体的な取り組みとして掲げられている項目だけでも13アイテムある。例えば「オープンデータ・ビッグデータの活用の推進」もその一つだ。また、医療・ヘルスケアや農業など、安倍政権が掲げる成長戦略の重点項目とのシナジーも織り込まれているなど、幅広さと具体性のバランスが取れている印象を受けた。

 一方で「世界一安全で災害に強い社会の実現」や「世界で最も安全で環境にやさしく経済的な道路交通社会の実現」など、いわゆるワールドクラスを意識したアイテムが並んでいるのも、今回の特徴といえる。うがった見方をすれば、やや威勢が良すぎるのではないかとも思えるが、恐らくは世界一として認めてもらうためのメトリクス(指標)も併せて構築し、同分野の産業全体を世界規模で牽引しようと考えているのだろう。

「閣議決定」で重みが増す

 このような新しい項目が含まれている一方、より詳細を読み解いていくと、これまでのIT戦略を踏襲している部分も多い。確かにITそのものは既に社会基盤となりつつあり、政権が変わっても取り組み自体はそう変わらないだろう。

 だからこそ、むしろ最も強い印象を受けたのは、今回まとめられたIT戦略に対する、政府の「本気度」である。そもそも「世界最先端IT国家創造宣言」というタイトルからして、政策パッケージとして野心的だ。日本がもはや最先端IT国家ではないという現実に立脚し、そのうえで日本社会の閉塞感を打破しようという気概が、明示的に込められているようだ。

 また今回のIT戦略は「閣議決定」された点にも注目したい。近年はIT戦略本部の決定にとどまっていたのに比べ、政権内での重みが増していると言える。閣議決定である以上、IT担当大臣のみならず、すべての閣僚がこの戦略を了承し、それぞれの持ち場でIT戦略を推進する義務を負うことを意味している。

 そもそも振り返ってみれば、IT戦略担当大臣が任命されたのも、随分と久しぶりだ。それこそ第1次安倍内閣以来、自民党・民主党政権の両方を通じて、IT戦略担当大臣はしばらく任命されてこなかった。

 なお今回のIT戦略は、政府CIOが陣頭指揮を執ることになる。政府CIOは、内閣官房副長官に次ぐ位置づけであり、各省の事務次官よりも上位だ。ITに関係する省庁が個別政策を推進する従来の方法とは異なり、強力な権限を持った政府CIOが、全省横断で戦略を進める点にも注目したい。

「総理のITへの思いが強い」

 そしてこうした取り組みが、どうやら官邸主導の強力なリーダーシップの下で推進されているようだ。

 今回のIT戦略策定に深く関わった、村井純慶應義塾大学環境情報学部長と、自民党の橋本岳衆議院議員にお話を伺う機会があったのだが、異口同音に「官邸の意志、とりわけ安倍総理自身の思い入れの強さや行動力がすごい」という。

 実際、本稿執筆時点では、6月14日の閣議決定からまだ数日しか経っていないが、既に具体的なアクションもいくつか始まっている。ITそのものが大きな変革期を迎える中、安倍内閣のIT戦略の野心的な取り組みを期待したい。