「あ、あれのことか!」。日経SYSTEMS 2013年7月号の特集を校了した日、ひと仕事終えた疲労と満足感に包まれながら帰宅の電車に乗っていたときのことだ。この特集の執筆中、何か忘れていることがあるような気がして、ずっと引っかかっていたのだが、そのときようやく分かった。「自分は10数年前、テーマこそ違うが今回と同じ文脈で特集を書いたことがある」と気付いたのだ。

 今回執筆した特集は「動き出した 基幹系×クラウド」。基幹系システムの動作環境として、Amazon Web Servicesに代表されるIaaS(Infrastructure as a Service)を選択する企業が増えていることに着目して、企画した特集だ。基幹系システムをIaaSへ移行することで、どのようなメリットがあるのか、オンプレミスから移行するに当たってどのようなことに注意すべきかを、事例を中心にまとめた。

 一方、以前書いた記事というのは、記者が当時所属していた日経コンピュータの2002年5月20日号特集「Linuxが基幹系で急浮上」である。テーマはLinuxだが、基幹系システムに採用され始めたこと、採用する場合に注意すべき点などについて書いたのは、今回の特集と同じだった。

 自宅に帰るとすぐに、書棚から当時の雑誌を引っ張りだした。この特集は記者が初めて一人で担当した特集だったので、原本を1部とっておいたのだ。改めて読み返すと、今回執筆した「基幹系×クラウド」と内容的にも共通している部分があった。

コスト以外のメリットが必須

 両特集に共通している部分は、採用の理由として「コスト以外のメリット」を挙げていること。例えば「Linuxが基幹系で急浮上」の当時の記述を見ると、最近ではコスト削減だけでなく、「バージョンアップに振り回されにくくなる」「スキルがあれば自力でシステムを保守できる」などコスト以外のメリットによって採用されることが増えた、と記述していた。

 今回の「基幹系×クラウド」もコスト以外のメリットが重視され始めてきた、ということを強調して書いている。実際に、「ハードに起因するシステム更新をしなくてすむ」「サイジングが不要になる」「簡易なDR(災害対策)サイトがすぐ作れる」といったメリットのためにIaaSを採用したユーザーの声を紹介している。

 二つの特集を見比べることで、新技術が基幹系システムに採用されるときの傾向が分かった気がした。

 安定稼働は当然として、まず、コストが下がることである。コストが下がらなければ、新技術を採用しようとする動機が生まれない。次に、ユーザーや導入現場にとって非常に魅力的な“コスト以外のメリット”がある場合だ。この二つを同時に満たしていることが重要だ、と記者は考える。