「普段はずっと郊外のセンターにこもっています。会うのは同僚だけで新たな出会いはまったくと言っていいくらいありません。ですから、こういう機会は大事にしてなんとか時間を作って出てくるようにしています」。

 5、6年前、あるIT企業のSEにこう言われたことを今でも覚えている。彼女の勤務場所はいわゆるコンピュータセンターでその企業の開発拠点も兼ねる。その中にいれば仕事は済んでしまう。

 社員食堂があるから昼食時に外へ出る必要はないし、3時のお茶も中で飲める。外に出ても同じようなコンピュータセンターの高層ビルが点在しているだけで、飲食店に入るには20分ほど歩いて最寄り駅の近くまで行かなければならない。

 最寄り駅から電車に乗って都心まで出ようとすると小一時間ほどかかる。平日にセンターから都心に出てくるとなるとなかなか大変である。彼女に会った場所は、確か中央区の飲食店で日時は土曜か日曜の夕方であった。

 「こういう機会は大事にして」と彼女が話したその機会とは勉強会を指す。大手IT企業のいわゆるユーザー団体が運営する勉強会に彼女は参加していた。勉強会が終わった後の懇親会の席で、たまたま呼ばれていた筆者は彼女の隣に座り、「社外の勉強会によく参加されるのですか」と聞いたところ、冒頭の答えが返ってきた。

モバイル時代に技術者をセンターに集結させる不思議

 彼女が言う通り、ITの仕事の大半はコンピュータセンター内でこなせる。情報システムの企画・設計・プログラミング・パッケージソフト導入・テストと見ていくと、企画やテストなどシステムの利用者とやり取りする一部の仕事を除いてセンターの中で完結しようと思えば完結できる。

 出来上がった情報システムに対する、データ入出力・システム監視・ソフト修整・機器交換といった仕事はどうか。システムが実際に使われる現場でデータを入出力したり、機器を交換する仕事を除き、やはりセンターの中でやれてしまう。

 彼女は本社の利用部門と打ち合わせをするために都内に行くこともある。ただし、会議に集まる面々の顔ぶれは「いつも同じ」だという。

 世の中には色々な仕事があるから「新たな出会いはまったくと言っていいくらい」無い仕事はIT以外にも当然存在するものの、コンピューターセンターに常駐している人たちが未知の人に会いづらいのは確かであろう。

 「常駐している人」と言った場合、大きく3通りある。まず、そのコンピュータセンターのビルを保有ないし借りている企業の社員である。彼らはその企業に所属する社員とその企業の親会社などからの出向者に分かれる。センターを持つ企業の社員であれば、職場はずっとセンターになるが、出向者は親会社などに戻れる場合がある。

 もう一つの「常駐している人」とは、コンピュータセンターで働いているが、そこの企業の社員ではない人である。要するに、そのコンピュータセンターに派遣されている人を指す。多くの場合、契約は請負あるいは準委任であり、「派遣」と書いてはいけないのだが、センターの中で働くことが義務付けられており、なぜか朝晩、出欠をとられたりする。

 こういう人はそのセンターに常駐しているのはたまたまであり、常駐先が変われば「新たな出会い」があるはずだが、同じセンターに何年間も常駐する場合がある。中には、センターにいる正社員のだれよりもセンター内のことに詳しい人もいる。