この連載では、「ダメに見せない説明術」を扱っている。前回までは、九つ目のダメ説明である「思想がない、考えがない、自分がない」をテーマに取り上げた。10のダメ説明は以下の通りである。
「10のダメ説明」
- 長い、細かい、テンポ悪すぎ
- 論点不明、主旨不明、結論なし
- 抽象的、具体的でない、表面的
- 理由がない、何故?が満載、説明が不足
- 独りよがり、自分視点、自己中心
- 遅い、ぎりぎり、時間なし
- 理解が浅い、内容が陳腐、質問されると沈黙
- 先を読まない、場当たり的、その場しのぎ
- 思想がない、考えがない、自分がない
- 反論する、否定する、対立する
今回から、この連載の最後のテーマである「反論する、否定する、対立する」を取り上げる。
「よい」と「ダメ」、正反対の意味を持つ二つの「反論、否定、対立」
筆者の定義する説明術において、「反論する、否定する、対立する」は正反対の二つの意味を持っている。一つは、仕事を成功させるために欠かせない行動としての側面を持つ、『よい「反論、否定、対立」』である。
一般にビジネスの世界では、自身のスキル、ノウハウを仕事に活かす。ただし、自分だけの能力では限界がある。限界を超えて「より高いレベルの仕事」を成功させるためには、「他人のスキル、ノウハウ」を組み合わせることが有効である。
ある人が、あるビジネスを行う場合、それを成功させるスキル、ノウハウなどの要素を完璧にすべて備えていることはほとんどない。従って、仕事を成功させるためには「自分の考え」だけでなく、多くの「他人の考え」を取り入れて、自分の考えの弱さ、甘さを補強することが必要になるのだ。
これに必要な手段が『よい「反論、否定、対立」』である。日本では欧米と比べて、「反論」「否定」「対立」を嫌がったり、それらを「関係の悪さ」として理解することが多いが、『よい「反論、否定、対立」』は非常に大事である。
仕事をする上では、立場の違う人が利害関係者(ステークホルダー)として複雑に絡みあうことが多いが、立場が違う人は意見も違うものである。この立場や意見の違いを調整すること、違いを乗り越えて関係者全体の共通利益を最適化することが重要になる。
そのためには、自分の意見と他人の意見の違うところを探し、自分の意見との違いを踏まえて、自分の意見の正当性を主張し、他人の意見の非正当性、矛盾などを見つけて反論することが欠かせない。
他人の意見に反論することで、自分の意見の正しさを周囲に納得させることもできるし、これによって自分や自組織の利益も守れる。反論の結果、他人の意見の間違いを明らかにして、全体としてより正しい方向に進めることができる可能性があるのだ。
さらに、他人の意見に反論していると、結果的に、自分の意見の間違いや弱さに気付くことも多い。反論を考えたり、具体的に反論を主張することで、仕事の全体最適につながる。これは非常に大事なことである。