少々前になるが、2013年5月26日に東京大学の本郷キャンパスで開催された「Edu×Tech Fes 2013」の取材は、楽しい体験だった。同イベントは、IT教育の未来を考えることを狙いとしており、今回が2回目の開催になる。

 主催者ライフイズテックの代表を務める、水野雄介氏のビジョンは明確だ(写真1)。「IT教育を通じて中高生の可能性を最大限に広げて、日本の教育を変える」ことだ。

写真1●「Edu×Tech Fes 2013」に登壇するライフイズテックの水野雄介氏
写真1●「Edu×Tech Fes 2013」に登壇するライフイズテックの水野雄介氏
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 そのビジョンを実現するためのアプローチが「IT教育を受ける中高生の数を20万にすること」。現在、高校球児の数は16万人。それを上回る20万人とすることで、野球界と同様、日本や世界を代表するIT業界のスターが生まれるだろうというのだ。

 ライフイズテックの活動の一つが、「Life is Tech!」と呼ばれる、中学生と高校生向けの「ITキャンプ(短期間のプログラミング講座)」である。この講座は、単にプログラミングのスキルを学ぶ場ではない。「プログラミングを通じて、新しいサービス、製品を作る楽しさを体験してほしい」(水野氏)というものだ。今、求められているのは、世の中に興味を持ち、解決したい課題を見つけ、新しいものを作る能力だからだ。

 多くの人が必要とする生活財が全般に足りなかった高度成長期とは違って、いまでは消費者のニーズは細分化・多様化している。そんな時代に求められているのが、上記のような課題発見と解決能力、そして関係者を巻き込む推進者のビジョンや強い意志だと言える。そして、これは若者だけでなく、企業に属している大人にも必要だと感じた。

 イベントには、この趣旨に賛同する人たちが顔を並べた。例えば、Microsoft日本法人初代会長の古川享氏と、Evernote日本法人会長の外村仁氏は、水野氏の意図に沿うかたちで「IT教育の今後」「デザイン」「アピール力」「親や先生の役割」を語った(写真2)。

写真2●古川享氏と外村仁氏によるIT教育をテーマとした対談
写真2●古川享氏(右)と外村仁氏によるIT教育をテーマとした対談
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 2人に言わせると、ITとは、困っている誰かを助けて、喜んでもらうための手段である。プログラミング教育は、助けられる人や喜ぶ人を増やすための方法だという点で、水野氏が推進する「Life is Tech!」の方向性と一致する。2人が考えるデザインは、よりよい生活や社会を実現するための行為。企業の再建のための考察と実行も、この意味ではデザインということになる。そして、いま必要なのは「デザインセンスのいい人」だという。

 アピール力については、米国教育における「Show and tell」が紹介された。好きなものをクラスメイトに紹介することで、周囲を引き付ける力を磨く。大切なのはプレゼンのテクニックではなく、本当に好きなものを周りにうまく伝えることなのだ。

 続くセッションでは、オープン・エデュケーションで知られる京都大学の飯吉透氏が、ネットによって教室の外に開かれた教育の現状を解説。ハーバード大学卒で楽天執行役員の北川拓也氏と現役高校生Tehu氏の灘高先輩後輩による対談では、リーダーシップやデザイン、見せる力が語られた。さらに、この日はキッザニア東京創設者の住谷栄之資氏、日本デジタルゲーム学会・前会長の馬場章氏、ゲーム「ゼビウス」などの生みの親である遠藤雅伸氏、オーストラリアでICTを活用した教育を実践する萩原伸郎氏に加えて、日本の教育現場のIT活動事例として広尾学園の金子暁氏と品川女子学院の酒井春名氏が登壇した。

 これだけの顔ぶれを集められるのも、「中高生の可能性を広げる」というビジョンと熱意が、多くの人を引き付けるからなのだろう。

 今回のすべての講演は、同イベントのサイトで見ることができる。水野氏がどのようなビジョンを持ち、それを周囲がどのように支援しているのか、興味を持った方はぜひアクセスしてほしい。