島型でパーティションのない机、部門代表に掛かってくる電話、朝礼後にオフィスを出発して夕方に帰社して終礼する営業担当者――日本のオフィスの日常風景で「和を大事にする日本」の象徴とも言われる。なぜこうした業務スタイルになったのか。源流を辿っていくと、不思議なことに「電話加入権」に行き着いた。

 日経コミュニケーション6月号で、特集「固定電話はもういらない?」を執筆した。ひかり電話需要による内線電話システムの更新から7~8年が経過し、オフィスの電話が更改期を迎えつつある。特集ではオフィスの電話のあり方について、先進ユーザーやベンダーの動向をまとめた。

 取材の過程でふと気になり、内線電話システムのベンダーに「なぜ現行の電話スタイルになっているのか」と聞いたところ、帰ってきた答えが「電話加入権が大元の理由」とのことだった。

 ことのあらましは以下のようなものだ。加入電話サービスを利用するには、1回線ごとに電話加入権(現在は施設設置負担金)が必要となる。ダイヤルインサービスが登場するまでは、1人の社員に1つの外線番号を割り当てようとすると、電話回線の数だけ電話加入権の取得が必要だった。それでは企業の費用負担が大きすぎる。自然な発想として「電話回線を社員で共用しよう」という流れになった。

 こうして企業に普及していったのが、PBX(構内交換機)やビジネスホン、キーテレホン、ボタン電話などと呼ばれる内線電話システムだ。会社の代表となる電話番号として「大代表」、各部門の代表として「部門代表」の電話番号が置かれた。日本企業に勤務する読者では、名刺に刷ってある電話番号は部門代表だけという人が多いだろう。

 そして、こうした内線電話の仕組みが日本のオフィス、ひいては日本人の働き方も決めてしまったのではないか。

知らず知らずのうちに電話中心の働き方になっていた

 考えてみれば当たり前の話だ。部門代表の電話は、その部門の誰かしらの社員が受けなければならない。となると、島型の座席配置はとても合理的だ。離れた場所に座っていたら、自分が取るべき電話が鳴っているのかどうかが分からない。

 パーティションも同様だ。パーティションがあると視線が気にならず、静かで集中できる。だがそれは、近くの席の音が聞こえづらくなるのと同義だ。パーティションを置かず、決められた電話が鳴動したタイミングで、誰かしらが電話を取るというオフィスが現実的だ。

 パーティションを付けて、部門代表への着信のたびに全電話機を鳴らす手もある。しかし、ほかの社員への電話でも着信音が鳴るのはうるさくて仕方がないだろう。転送も面倒くさい。

 パーティションのない島型の机の配置というのは、仕事で電話を使う以上は必然だったのだろう。電話加入権が存在した時点で、日本のオフィスの形態は決まっていたのかもしれない。

 さすがに考えすぎかもしれないが、営業現場での朝礼や終礼も電話のあり方が影響している可能性がある。

 部門代表電話だと、部門の誰が電話を受けるか分からないし、どの社員が対応すべき電話なのか通話するまで判明しない。着信履歴や留守番電話機能を付ける意味が薄い。電話機に残しても役に立たないし、交換機側に残すと数が多すぎて整理するのが大変だ。誰かしらが電話を受けて、担当者が不在ならばメモを残すのが手っ取り早い。

 自分の外出時の“着信履歴”がメモの形で残っているならば、出社して見るのが一番だ。となると、外勤の営業職でも朝と夕方はオフィスに行くのが合理的だ。どうせオフィスに集合するなら、朝礼や終礼でミーティングや業務連絡をすればいい、と考えるのは自然なことだろう。