「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」、いわゆるマイナンバー法が2013年5月24日に国会で可決・成立し、同31日に官報で公布された。2015年10月からの個人へのマイナンバーの通知、2016年1月の行政手続きでのマイナンバーの利用開始、さらに2017年1月以降の行政機関・自治体間での情報連携の開始に向けて、国の行政機関や地方自治体では事務プロセスや各種業務システム、個人情報保護条例などの見直しがいよいよ本格化する。

 マイナンバー制度では、庁内でマイナンバーを利用可能な(利用すべき)事務として93事務を規定しており、そのうち地方自治体が関係するのは42事務である。内訳は都道府県に関係する事務が34、市町村は27である。

 一方、情報照会者または情報提供者として庁外の団体との情報連携にマイナンバーを利用可能な事務は115事務が規定されており、そのうち実に99事務が自治体に関係したものだ。特に、住民基本台帳をはじめとする住民情報を扱う市町村が情報提供者となる事務は92にも上る。

 このため、マイナンバー制度に対応するために自治体で改修が必要になる業務システムは極めて多岐にわたる。市町村では、マイナンバーの通知や個人番号カードの交付に直接関わる住民基本台帳システムや宛名システムに加えて、社会保障・税分野の個人住民税、法人住民税、固定資産税、軽自動車税、収滞納管理、社会保障関連などのシステムに改修が発生する。

 都道府県には住民情報そのものを管理する事務はないものの、個人事業税、自動車税、法人住民税・事業税、不動産取得税、収滞納管理、社会保障関連などのシステムに影響が及ぶ。さらに都道府県・市町村ともに、使用者として職員のマイナンバーを扱うことから、人事給与システムや共済組合などの組合員管理システムの見直しも必要になる。

 こうした業務システムの改修は、各自治体が個別に実施することになるが、負担は小さくない。大規模な自治体には、相応の数の職員はいるものの、改修対象となるシステムの規模が大きい。一方、小規模団体はそもそも職員数が限られる。政府は、自治体を含む団体間の情報連携を、国の機関同士の連携開始から半年後の2017年7月に一斉にスタートさせる意向であり、現時点で“五月雨式”は想定していない。

 このため中小規模の自治体では、マイナンバー制度への対応もにらんで、自治体クラウドへの移行に着手したところもある。元々、自治体でのクラウド活用は、複数団体でのシステム共用によって割り勘効果が得られることから、システム運用コストの削減を狙って、各地の自治体で取り組みが始まった。東日本大震災後は、データ保全や迅速な業務再開などのBCP(業務継続計画)強化の観点からも注目を集めているほか、急増する不正アクセスなどへのセキュリティ対策としても期待が高まっている。総務省も実証実験の音頭を取ったり、補助金を交付したりするなど、普及を後押ししてきた。

 自治体はクラウド方式のシステム共同利用への移行によって、単独でマイナンバー対応を進めるよりも費用や期間を抑えられる可能性がある。複数の自治体が集まれば、小規模自治体単独よりもITベンダーの開発要員を確保しやすくなる効果も見込めるだろう。

 もっとも、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)方式の場合は、業務プロセスなどを標準パッケージに合わせたり、参加自治体間で標準化する必要が出てくるため、対応期間を短縮できるとは限らない。今から業務システムのクラウド移行を計画する場合は、スケジュールの精査が欠かせないだろう。