部下のシステムズエンジニア(SE)を巡り、役員や事業部長とSE部課長が次のようなやり取りをする場面を目にしたことはないだろうか。

「20代の頃バリバリやっていた吉田君(仮名)、最近も元気かね」

「実は伸び悩んでいます。入社して15年目、年齢相応の成果を出してもらいたいのですが」

「困ったね。もう一人、中村さん(仮名)も目立っていたが」

「彼女も30歳を超えてから壁に突き当たっていますね」

「・・・」

 「彼はできる」「彼女は優秀」とかつて言われた若手が、30代になるとパっとしなくなるという話をよく耳にする。どうしてなのか。

 理由は色々と考えられる。同一の開発現場にずっと常駐させてきたから、知らず知らずのうちに本人は飽きているのではないか。後輩をなかなか配属できず、30代になっても現場で最年少のままだからか。顧客の要請で長年使ってきた開発言語やデータベース管理システムを急に変更したため、従来のスキルを生かせなくなったのか。

 なぜだろうと心配した部課長は彼や彼女と面談する。今ひとつ仕事をうまく進められないという自覚は本人にもあるものの、原因は分からないと答える。経営者や上司や先輩は首をひねり本人は悩む。

問題の一つはSEの言葉遣い

 必ずそれが理由だとは言い切れないものの、言葉遣いに問題がある場合が結構ある。ここで言葉遣いとは日常の挨拶や顧客の要望を聞き出す対話にとどまらず、言葉を駆使して物事を考え表現する力まで含む。

 IT(情報技術)の変化は激しいと言われているが、IT関連職場を見ると20代の仕事は与えられた仕様書や設計書に基づきコンピュータプログラムを記述する割合が多い。30代になると、SEとして顧客の要望を聞き仕様書や設計書を記述する仕事に移っていく。仕様書や設計書を協力会社のSEに渡し、委託先の仕事を管理する仕事も増える。

 プログラミングも仕様の取りまとめも設計も委託先管理も、何かを「記述」する仕事である。仕様書や設計書の作成にあたっては、正確かつ誤解を招かない文章を書く力が要求される。協力会社に仕事を依頼する場合も分かりやすい文章は必須である。

 このため、SEの言葉遣いに問題があると仕様書や設計書に不備が発生し仕事は滞り「彼は伸び悩んでいる」あるいは「彼女の力は落ちた」と言われてしまう。

 SEはエンジニアだから技術力が必要だが「システムのエンジニア」である以上、物事をシステムとして把握し表現しなければならず、その時に言葉遣いが重要になる。

 言葉遣いを支えるのは語彙である。SEは顧客を上回るくらいの語彙を持ってこそ、顧客の業務を観察し、認識し、理解し、顧客自身が気づいていない要望まで汲み取ってシステムを設計できる。

 逆に語彙が乏しくシステムについて不正確な文章しか書けないとなると、そのシステムにかかわるすべての仕事の出来が悪くなる。