「ビッグデータの活用といっても、膨大なデータを擁する大企業やネット企業だけの話ではないのだろうか」。記者はこれまでこう思っていた。ビッグなデータはどこにあるかを考えた結果、そういう結論に達したのだ。ところがある企業への取材で、「成長を続けるベンチャー企業こそ、ビッグデータを活用するにふさわしいのではないか」と考えるようになった。

 その企業とは、1969年に創業した鉄道の自動券売機や自動改札機などのメーカー、高見沢サイバネティックス。日経情報ストラテジー2013年7月号の特集記事の取材をするために訪れた。取材の趣旨は「起業後20年から40年ほどたっても、革新性や永続性を保ち続けるベンチャー企業にその秘訣を学ぶ」だった。

 高見沢サイバネティックスは「革新性や永続性を保ち続ける」という今回の取材先として、ふさわしい企業の1社だ。まず、鉄道の自動券売機の開発・販売から事業をスタート。その券売機は、印刷機能を持たせることで複数種類の切符を販売できるようにした、世界初の量産機だった。大阪万博開催時には、会場前の北大阪急行電鉄 万国博中央口駅で採用された。現存する券売機は、日本機械学会から「機械遺産」の指定を受けている。

 技術の応用でも成果を上げる。自動券売機で培った、切符への印字に使うサーマル(熱転写)技術を応用。振れ幅が大きい箇所の波形だけを印刷できるようにした地震計など、ユニークな製品を生み出している。

 2000年代後半からは、券売機や改札機で培った技術を応用して、自転車やバイクの有料駐輪場の管理システムを開発。販売にとどまらず、グループ会社と連携して駐輪場の運営ビジネスも展開している。

 同社が運営する駐輪場は、首都圏の駅やスーパーマーケットの近くに150カ所ある。それぞれの駐輪場管理システムから利用状況に関するデータを収集し、天候に関するデータを見比べながら、売り上げ分析を行っている。

「新しいビジネス見つけ出せそう」という人が分析すべき

 同社への取材で印象的だったのが、高見沢サイバネティックスの髙見澤和夫社長の「小売業のPOS(販売時点情報管理)データのように、現場の様子がつかめるようになった」という言葉。「ここから新しいビジネスチャンスが見つけ出せそう!」という雰囲気が感じとれた。記者の頭に前出の考えが浮かんだのはこのときだ。

 革新的な商品やサービスを生み出すようなベンチャー精神が旺盛な人は、着眼点が鋭いし、それを形にできる。そういった人にビッグデータを扱ってもらえば、新しいビジネスの可能性やトレンドを導き出してくれるのではないか。記者はそう考える。

 もちろん、そもそもビッグデータをどう調達するのか、どう分析を進めていくのかといった課題は出てくる。商品開発に力を入れるベンチャー企業では、販売は提携会社に任せていて、直接はビッグデータを扱えないケースが少なくない。その場合、顧客の個人情報保護など解決すべき課題をクリアしていかなければならない。

 しかし、なんとかしてそれらの課題をクリアして、ビジネスの商機は見つけてほしい。ビッグデータの分析手段であるITは整っているわけだし、景気上向き感の勢いにも乗りたい。

 上向き感ある中で出てくる新ビジネス企画は、きっと面白いものが多いはず。そういった雰囲気のある今だからこそ、ベンチャー企業が提携関係にある企業と協力して、ビッグデータを“起点”とした、新しいビジネスを発掘してほしい。