『神国日本に特需の神風、暗雲も「技術の雲」も一掃か』という題名を見て「別のサイトの記事が間違ってITproに載ったのではないか」と心配した読者がおられるかもしれない。本文冒頭ではあるが、題名について補足する。

 「特需」とは、既存の基幹情報システムの見直しによってSE(システムズエンジニア)が足りなくなっている状況を指す。「技術の雲」とはクラウドコンピューティングである。

 諸事情で取材をしない状態が続いていたが、事情が少し変わり5月に入って久しぶりに取材らしきことができた。以前から抱えていた宿題をようやく進めて「できました」とか、「1年半前に相談した案件を進めてよいでしょうか」と報告に行ったためで正式な取材ではない。

 それでも旧知のIT企業経営者や業界通にお目にかかると、本題の前後に雑談をすることになる。久しぶりに人と話ができて実に楽しかったと書きたいが、数人と続けて雑談するうちに何とも複雑な心境になってきた。

またまた始まった「SEが足りない」

 5月に数人の方と雑談して遅まきながら分かったのは、IT業界で仕事が急増していることである。2年ぶりに会った大手ITサービス企業の社長に不義理を詫びると、「この2年ほど業績不振に苦しんでいたので谷島さんから連絡が無くて良かったです。ここへきて人がまったく足りない状態になっています」という返事であった。

 直接言われたときは気が付かなかったが、文字にしてみると果たして自分は歓迎されていたのかどうか少し心配である。それはともかく、業績不振の理由は受注の減少といくつかの開発案件で苦労したことだそうだ。社長は、「お客様がご自分の情報システムはもちろん、業務プロセスを把握されておらず手こずりました」とも言っていた。

 業界通の人にも数人会った。「今年は久々の当たり年で、どこにいっても人が足りないという話になっています」「SEを抱えている中堅中小のIT会社があれば買いたいという相談も多いです」。こんな話が出た。当たり年というのは、大規模情報システムの更新時期が重なったり何らかの制度対応が発生し、企業がほぼ一斉に情報システムの修整にとりかかることを指す。

 マイナンバー法案が衆議院で可決され参議院に送られたこともあり、「マイナンバー関連のシステム修整を見込んで、あらかじめSEを抱え込んでおこうとするという動きもある」という話も聞いた。一人ひとりに振られる番号を既存の情報システムで使えるようにする必要があるわけだが、業界が潤うほどの開発需要があるのだろうか。

 あるコンサルタントに「マイナンバーは『使う話』であって大掛かりに何かを『作る話』ではないのでは」と聞くと、「本質を言えばそうだが、マイナンバーをきっかけにして凍結していた開発案件を再開する動きもある。今は既存の情報システムがどのような状態にあり何かの修整や追加をした場合、どういう影響があるかを調べている段階」だそうだ。

 こうした話を聞いてから事務所に顔を出すと机の上に日経コンピュータの最新号(5月16日号)が置いてあった。表紙に『IT投資こそ成長のエンジン』と大書してある。「おお」と思って手に取って読み出すと、12ページにNECと富士通の2013年連結決算に関する記事が載っていた(ITpro上の同記事)。それを読むとNECも富士通もITサービス事業が好調だが携帯電話や半導体などハード事業が課題と書いてあった。

 NECも富士通も自社のSEだけでITサービス事業をこなせないから、IT業界の各社からSEを調達している。なるほど確かにSE不足になりつつあるのだろう。前出のコンサルタントは「SE単価はまだ上がっていない」と言っていたが、足りなくなれば値段が上がり、IT業界各社の業績はもっとよくなるはずだ。