最近、携帯電話業界の動きを見ていると、何か物足りなさのようなものを感じることが多い。新製品発表会はスマートフォン一色で似たような端末が多く、性能や機能の違いも一見して分かりにくい。「アプリで機能を追加していく」というスマートフォンの特徴を考えれば、当然のことなのかもしれない。

 だが、よく考えてみると、物足りなさの要因は別にあった。それは、最近は事業者間の競争が激しくなくなってきたことだ。「何を言っているんだ。携帯電話業界は特に動きが早く、他の業界に比べても過酷な競争環境にさらされている」とお叱りを受けるかもしれない。確かに筆者もそう思っている。

 ただ、携帯電話が一般に広がり始めた当初やソフトバンクが参入した直後に比べると、明らかに“ゆるく”なったように感じる。特にソフトバンクの参入直後は料金下げ競争が加熱し、業界全体が疲弊した。その反動もあってか、最近では各社とも「安易な料金下げ競争には参加しない」との方針を貫いている。

 むしろ、ARPU(契約当たり月間平均収入)の底上げを期待できるスマートフォンブームを追い風に、利益確保に走っている印象すら受ける。MM総研の予測によると、携帯電話全体の契約数に占めるスマートフォン比率は2013年3月末時点で37.2%。5年後の2018年3月末には73.2%に拡大する見通しで、これから収穫期に入る。

大人になってしまったソフトバンク

 やはり、競争がゆるくなった最大の要因は、業界3位のソフトバンクモバイルが料金面で攻勢に出なくなったことが大きい。同社は参入直後、「他社の料金下げやプラン変更には24時間以内に対抗する」と公約していたが、いつの間にか消えてしまった。例えばNTTドコモは昨年10月、月間パケット通信量の上限を3Gバイトに抑えた月4935円の割安プランを投入したが、ソフトバンクモバイルは追随していない。

 逆に、LTEに対応したiPhone 5でパケット通信料の実質値上げに成功した。KDDIが2011年10月にiPhoneの販売に参入し、2012年3月にはauスマートバリューで攻勢に出てきたにもかかわらずだ。このほか、NTTドコモはXi対応スマートフォンのテザリングを無料で提供しているが、ソフトバンクモバイルは有料扱い(当初、2年間は無料)といった例もみられる。それでも、安いというイメージが定着しているためか、iPhoneを中心に販売好調を見事に維持している。

 一方、競合他社はどうか。KDDIはスマートフォン市場に軸足を移すのが遅かったこともあり、攻勢に出ている印象は受ける。Android搭載スマートフォンの大幅なラインアップ強化に続き、iPhoneの販売も始めたが、iPhoneのパケット通信料はソフトバンクモバイルに比べて高く設定した。Android端末との販売のバランスに加え、auスマートバリューの投入を踏まえたものだろう。