「おいっ、顔を上げて聞けよ!」---。新卒で日経BP社に入社して間もないとき、人事担当者にこう怒鳴られたことがある。配属部署の希望を聞くからと急に言われて、当社の雑誌リストが書かれた紙を見せられたときのことだ。

 筆者は「えっ、そんな大事なことを即答しろと言うの?」と動揺した。紙を食い入るように見つめたまま、その人事担当者が各部署の説明をするのを上辺で聞いてしまった。人事担当者にとってみれば、新人のくせに人の話をいい加減に聞く無礼者に見えたのだろう。怒鳴られて当然だった。

 いきなりそんな苦い思いを味わったので、記者として相手の話を聞く態度に気を付けるように努めた。しかし数年後にまた怒鳴られた。しかも、今度はこともあろうに取材相手からである。

 コンサルタントのAさんは、深い洞察力と知見の持ち主で、いつも本質を突いた助言をしてくれる。筆者にとって非常に頼りになる存在だった。その日も、Aさんの話を感服しながら聞いていた。Aさんがあることを説明していたときに、何を言おうとしているのかがイメージできたので、少し遮るような感じで「あっ、分かります、分かります」と答えた。これがAさんのかんに障った。

 「重要なことを話していたのに、それが分かっているというなら、もう何も話すことはない。帰ってくれ」。Aさんは、こう言って席を立った。

 筆者はすぐ平謝りしてなんとか許してもらった。しかし、その後しばらく落ち込んだ。「自分は聞き方が致命的に下手なのだ」と痛感せずにいられなかったからだ。聞き方で取材相手に怒鳴られた先輩や同僚は、周囲に一人もいなかった。聞き方は、記事の書き方と同様に、記者としての生命線である。「生まれつき下手なのだ」と開き直るわけにはいかない。

記者もエンジニアも聞くのは難しい

 それ以来、一層、聞き方に気を付けるようになった。真摯な態度で相手の話に耳を傾ける「傾聴」のテクニックを、日々の取材を通じて磨いていったのだ。

 ここで言い訳のようなことを言うが、記者としての傾聴は難易度が高い。相手が矛盾したことを言えば問いただし、曖昧あるいは抽象的な説明であれば食い下がってでも明確で具体的な内容を求めなければならない。低姿勢でニコニコしながら聞くだけでは、記者は務まらない。

 これは、ITエンジニアの方も同じだろう。特に要件定義のヒアリングでは、相手の機嫌を損ねることなく、必要な情報をすべて引き出さなければならない。利用部門に対して立場が下の場合、その難易度は極めて高い。

 そこで、少しでも参考になればと思い、筆者が現場で磨き実践している傾聴のポイントを三つ紹介したい。当たり前のことばかりかもしれないが、その場合は、ご自身の聞き方を考えるきっかけにしてもらえると幸いである。

聞きたい気持ちを前のめりになって伝える

 筆者は普通にしていても偉そうに見える傾向があるらしく、マナーについての自信もない。そこで、話を聞きたい、教えてほしい、という熱意を全身で表現するようにしている。いきなり精神論で恐縮だが、聞きたい気持ちを前のめりになって伝えようとするのが重要だと思う。筆者の場合、ペンを片手に身を乗り出すような姿勢になる。これが一つ目のポイントである。