数年前に話題になった「IFRS(国際会計基準)」。最近、話を聞かないけれど、日本での適用は立ち消えになったんだっけ---。こう思っている読者の方も多いのではないだろうか。ここ数年、IFRSの文字を目にする機会はめっきり減っている。決算発表シーズンの今、新聞の決算発表記事で見かける程度ではないだろうか。報道は減っているものの、日本企業への適用がなくなったかどうかについては「まだ決まっていない。議論中」というのが現状だ。

 現在、自社の会計基準にIFRSを採用している、あるいは採用を表明している企業は18社ある。いずれも自主的に採用を決めた「任意適用企業」だ。ソフトバンクや楽天、ディー・エヌ・エーといった今、勢いのある企業もIFRSの任意適用企業である。一部の識者が「IFRSには向いていない」と指摘している製造業では、HOYA、旭硝子、アステラス製薬、アンリツ、中外製薬、日本板硝子、日本たばこ産業(JT)、日本電波工業の8社が任意適用を表明している。

 18社を多いと見るか少ないと見るかは意見が分かれているところだが、IFRSの任意適用企業は増えつつあるのは間違いない。にもかかわらず、この数年、IFRSに関する報道が減っているのは、2度の政権交代を受けて金融庁でのIFRSに関する議論がこの2年間で停滞していたからだ。「IFRS適用のために念のため、準備を進めた方が良いのだろうか」。こう考えている企業のシステム部門や経理部門にとっては、“迷惑”な2年間だったと言っても過言ではない。

 そんな議論が少しずつ動き出そうとしている。IFRSの適用については、金融庁の企業会計審議会総会とその下部組織である企画調整部会で議論している。2013年4月23日に開催された企業会計審議会総会・企画調整部会の合同会議で、金融庁が現在の検討課題についてまとめた文書を提出し、新たな議論が始まったからだ(関連記事:「IFRS任意適用緩和+カーブアウト」の方向性示す、金融庁審議会が議論)。

政権交代から議論は停滞

 そもそもIFRSの議論が停滞したのは自由民主党から民主党への政権交代がきっかけだった。そして今回、議論が動き出そうとしているのも民主党から自民党へ政権が変わったことが背景にあるとみられる。話題になることは少ないが、IFRSも政権交代に翻弄されている一分野である。

 これまでのIFRSを取り巻く経緯を簡単に振り返っておこう。日本企業のシステム部門や経理部門にとって、IFRSが注目のキーワードとして浮上したのは、自民党政権下の2009年6月のことだ。現在の日本の会計基準の代わりにIFRSを採用する「強制適用」の方針を金融庁が打ち出した。

 この時点で「最短の場合2015年3月期から全上場企業にIFRSを強制適用する」「その判断は2012年に下す」といった内容を金融庁は示した。自社でIFRSを適用する場合、会計システムやその周辺システムの改修が必要になるため、「いつから準備すれば間に合うのか」という点に注目が集まった。

 ところが2011年6月。民主党に政権が変わり当時の金融担当大臣を務めた自見庄三郎氏が強制適用の方針を見直すと発表した(関連記事:「中間報告を見直すべきか」、企業会計審議会がIFRS強制適用に関する議論再開)。この後、企業会計審議会は「結局、日本企業にIFRSを強制適用するのかどうか」を明確に決めない状態が現在まで続いている。

 自見氏は元国民新党だ。当時の金融担当大臣は郵政担当大臣の兼務のポストとして、民主党政権下では郵政改革に力を入れていた国民新党に割り当てられた。自見氏はIFRSの強制適用の方針について急に見直すと発言したのかについて明確に説明してこなかったが、「IFRSの強制適用に慎重派が準備を重ねて自見氏を動かした」との見方が一般的だ。(関連記事:なぜ今「適用延期」なのか(前編)なぜ今「適用延期」なのか(後編))。