ビッグデータを、新商品・サービスの開発や業務改革に生かす「データサイエンティスト」が注目を集めている。今、そのすそ野が業種や年齢を越えて大きく広がっている。筆者は特集取材を進めるなかで、そんな思いを強くした。

 日経情報ストラテジーは2013年6月号(4月29日発売)で、データサイエンティスト特集を組んだ。大手航空会社から食品、EC(電子商取引)、エネルギーまで幅広い業種のデータサイエンティスト10人に話を聞いた。特集は、等身大のデータサイエンティストに迫るため、可能な限り10人の仕事内容や考えが分かるような構成にした。

写真●大阪ガス情報通信部ビジネスアナリシスセンターの三上彩氏。仕事を終えて、マンドリンの練習に出掛けることもある(写真撮影:宮田昌彦)
写真●大阪ガス情報通信部ビジネスアナリシスセンターの三上彩氏。仕事を終えて、マンドリンの練習に出掛けることもある(写真撮影:宮田昌彦)
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 インタビューをした1人が、大阪ガス情報通信部ビジネスアナリシスセンターの三上彩氏(写真)。ビジネスアナリシスセンターは、9人のデータサイエンティストが所属する専門集団(関連記事)で、三上氏は若手として日夜仕事に励んでいる。ビジネスアナリシスセンターの紅一点で、気象予報士の資格取得に向けて勉強中でもある。

 三上氏は大学院で気象学を専攻した後、大阪ガスに入社した。大学院時代は沖縄の山奥にある観測所に何度も出向いて気象データを収集し、大学に戻っては分析するという研究生活を送っていた。三上氏は当時を振り返り「沖縄にいるにもかかわらず、海にはいかず、山にこもってばかりいた」と苦笑する。

 就職先として大阪ガスを選んだのは「生活をするうえでなくてはならないエネルギーを通じて、世の中の生活を豊かにする仕事に就きたかった」(三上氏)からだ。気象学を学んでいたため、環境問題にも大きな関心を持っていた。データ分析だけがやりたくて、大阪ガスを選んだわけではなかった。そもそも学生時代にデータ分析組織の存在を聞いた時、「何でガス会社がこんなことをやっているんだろう」と疑問に感じていたという。

 最初の配属はIT(情報技術)インフラのチームで、ITを活用したワークスタイル変革を推進した。それを1年間経験した後、ビジネスアナリシスセンターに異動した。今では液化天然ガス(LNG)タンクの運用支援からガス機器の部品在庫の最適化まで、仕事は多岐に渡る。上司である河本薫ビジネスアナリシスセンター所長の方針もあり、三上氏は1人で多くの仕事を担当している。

 そんな三上氏が手掛ける仕事の1つに、HEMS(家庭用エネルギー管理システム)「エネルックPLUS」の導入支援がある。エネルックPLUSとは、ガスや電気、水道の使用量を「見える化」するサービス。三上氏の主な役割は、エネルックPLUSの導入促進を狙って実施するキャンペーン施策で、その効果を検証することにある。

中立的な立場でデータを捉える

 三上氏は、エネルックPLUSを担当する部門とやり取りをするなかで、あることを心掛けた。それは「中立的な立場でデータを捉えること」。担当部門にしてみれば、省エネ効果を大きくアピールしたいのは当然。しかし、担当部門の意向ばかりに目がいくと、第三者からはつっこみどころ満載な分析になってしまう。そうならないように、上司にアドバイスを求めながら、先入観を持たず、中立的な立場でデータを見るようにした。

 「中立的な立場で正確な値を出していくことが難しくもあり、私たちの価値でもある」(三上氏)。そんな姿勢が奏功し、学会で発表できるほどの成果を得た。このプロジェクトを通じて、三上氏は大きな自信を得たという。