あなたが起業するとしたら、または会社で新規事業を立ち上げるように言われたら、サービス開始や商品発売の時期をどのくらい先に設定するだろうか。

 筆者なら、半年は難しい、1年先なら大丈夫かもしれない――と答えるだろう。いや、ビジネスモデルを固めて、サイトや商品を開発して、投資家から資金調達して(会社なら予算を取って)、必要なら他社と提携するなどパートナーを見付けて、プロモーションもしなくてはいけない。こう考えてみると、やることがありすぎて1年先でも難しいような気もする。何しろ、新規事業ではなく日々担当している単行本の編集でも、同時並行で進めているとはいえ、筆者は、1冊の本を作るのに半年から1年をかけているくらいだ。

 しかし、筆者が想像するスピードでは遅すぎる――。このことを思い知らされたのは、新刊『GILT―ITとファッションで世界を変える私たちの起業ストーリー』という本の編集を担当したからだ。本書を記した2人の著者は、ギルト・グループというデザイナーズ・ブランドを格安で販売するショッピングサイトの共同創業者だ。ニューヨークに本社を置くスタートアップ(ベンチャー)で、この2人を含めた創業者たちのモーレツな仕事ぶりとすさまじいスピード感に、筆者は圧倒されたのだ。

たった4カ月でアイデアをまとめてサイトをオープン

 まず、ギルト・グループについて簡単に紹介しよう。ギルトは2007年11月にオープンしたショッピングサイトだ。デザイナーズ・ブランドから過去のシーズンの在庫品などを仕入れて格安で販売して売り上げを伸ばし、3年半後には会社評価額が10億ドル(1000億円)になるほど急成長した。

 特徴的なのは、毎日同じ時間(ギルト・ジャパンは夜の9時)にいくつかのブランドのセールを始め、一つのブランドのセールは数日間で終わること。ユーザーは早く買わないとなくなるし、日々違うセールが始まるので、毎日セールの開始時間にアクセスするようになる。さらに、会員制でIDとパスワードを入力しないとセール情報を見られないのでネットの検索エンジンがアクセスできず、検索結果に安売り情報が出ない。この点がイメージを大事にするブランド側から支持されて、商品が集まりやすくなった。

 そのギルトの2人の女性創業者は、もともとハーバード大学の同級生だった。1人は、卒業後に創業期のイーベイで働き、もう1人は投資銀行のメリルリンチで働いた後、ハーバード大学のビジネススクールで再会し、親友となった。ビジネススクールを修了してから、2人とも別の企業で働いていたが、「サンプルセール」と呼ばれるブランドの在庫処分セールに一緒に出かけていたことから、オンラインでサンプルセールを展開する事業に踏み出した。

 創業者の一人、アレクシスが事業に乗り出したのが2007年7月。そこから、エンジニアである2人の共同創業者と一緒にサイト構築の準備を始めた。そして、アレクシスが親友のアレクサンドラを新事業に誘い、アレクサンドラが当時働いていたブルガリを辞めて参加したのが2007年9月。その2カ月後の2007年11月には、サイトをオープンさせたのである。アレクシスが事業を始めてから、たった4カ月でサイトオープンしたことになる。これほど急いだのは、競合がサービスを始めそうだったことと、米国でショッピング・シーズンが始まる感謝祭に間に合わせたかったからだ。

 たった4カ月の間に、ビジネスモデルを作り、商品を提供するデザイナーズ・ブランドと交渉し、資金を調達し、サイトを設計・構築していったのだ。創業者たちは大変な苦労をして間に合わせたのだが、ITpro読者のみなさんにはエンジニアたちの奮闘ぶりを中心に紹介したい。