一つの情報システムで使われている技術は、それこそ山のようにある。サーバー、ストレージ、ネットワーク、OS、DBMS、それにオブジェクト指向技術やトランザクション技術、ディレクトリーサービス、検索技術、システムによってはESBやBIなどを使っていることもあるだろう。それらのすべてをマスターしているITエンジニアは、まずいない。

 知らないより知っておいたほうがいいのはその通りだが、ここまで多様化した技術をすべてマスターするのは現実的ではない。

 昔から言われているのは、「安定している技術レイヤーはフタをしておく」という指針だ。「問題を引き起こすことはほぼない」と判断できる技術レイヤーは突っ込んで勉強せず、成熟していない技術レイヤーを優先してマスターする。

 新システムを構築するなら、その指針がいいように思う。では、既存の業務システムをメンテナンスする場合はどうだろうか。頻度は低いとはいえ、「安定している」と思われていた技術レイヤーで問題が起こることがある。そんなとき、そのレイヤーの技術を知らなければ、解決策を見いだすどころか、何が起こっているのかさえ理解できないものだ。

 既存システムのメンテナンスに関わるなら、安定していると思われる技術レイヤーも押さえておく必要がある。「自分は運用保守の担当ではない」という人もいるだろう。しかし最近では、全く新規のシステム開発はすっかり少なくなっている。既存システムを改修したり、機能追加したりするケースが多い。そういう場合、既存システムで使われている技術を知っておかねばならない。

 安定していると思える技術レイヤーも知らないでは済まされない。ではどうやって学べばいいのか。すべてを詳細に学ぶ時間はないので、概念的な理解をすることだと思う。その技術は何をしてくれて、全体の構造はどうなっているかといったこと。それだけでも押さえておけば、何かあったとき、何が起こっているかを理解する助けになる。必要なら、その後で詳細に調べればいい。

 そうした背景で生まれたのが「図説 業務システム テクノロジー選集」で、筆者はその編集を担当した。40個の技術を6種類(中核技術、普遍技術、スタンダード技術、プリミティブ技術、ピンポイント技術、セキュリティ技術)に分けて図説している。