JR東日本グループのクレジットカード会社であるビューカード(東京都品川区)の会田雅彦常務取締役は、悩んでいた(写真1)。これまで同社は、JR東日本の駅で広告・宣伝できるという恵まれた環境と、ICカードのSiuca(スイカ)との連動サービスといった独自の商品力で、順調に会員数と取扱高を伸ばしてきた。現在、約420万人のカード会員を抱えている。
ただし、今後さらに成長するには「もう一段、ギアチェンジが必要だ」。会田常務はそう考えていた。
同社の前身は、JR東日本のカード事業部で、1992年に発足した。3年前の2010年2月にJR東日本のクレジットカード事業を継承し、独立した企業であるビューカードとして営業を開始し、生き残りを図ることになった。
420万人の会員を集めるところまでは、単発でのマーケティング施策を続けて経営目標を達成してこられたが、「これからはそうもいかなくなる。もっと統合的なマーケティング施策が必要だ」と、会田常務は感じていた。
ちょうどそんな時、会田常務を訪ねてきた3人の男たちがいた。中心人物は、ギックス(東京都港区)という聞き慣れない社名の名刺を差し出した、同社の網野知博代表取締役CEO(写真2の中央)。網野CEOは会田常務に、前職の日本IBMを2012年末に辞めて2人の仲間とギックスを起業し、いの一番にあいさつに来たことを伝えた。
そして今、ビューカードはギックスの3人を社内に迎え入れ、「CMO(最高マーケティング責任者)的な存在として位置付けて、働いてもらっている」(会田常務)。
正確に言えば、「2月から始めたばかりなので、彼らにはこれから、CMOのような存在になることを大いに期待している、と言った方がいいかな」と、会田常務は私に言い直した。2013年3月中旬のことである。
経営とデータ分析とマーケティングが分かる人材など、社内にはいない
ギックスを立ち上げた3人とは、いったいどんな人物なのか。
彼らは3人とも、直前まで日本IBMに勤務していたデータ分析のプロである。なかでも網野CEOはIBM時代、ビッグデータ分析のサービスを提供する専門組織BAO(Business Analytics & Optimization)に所属し、ソーシャルメディアから顧客の声を拾い上げる「ソーシャルリスニング」などで実績を重ねてきた。IT業界では、IBMだけでなく競合各社がこぞって、今最も力を入れているビジネス領域である。
そのBAOのコンサルティング部門(BAO Strategy)で、統括責任者を務めていたのが網野CEOである。そして同じBAOの仲間2人とともにIBMの看板を捨て、データ分析で独立を果たした。2人とは、田中耕比古取締役CMSOと花谷慎太郎取締役CTOである。3人は、ベンダーサイドのデータサイエンティストといえる存在である。
しかし、最近話題の職業の1つとはいえ、IBMを辞めることに不安はなかったのか。私はまずそう尋ねた。